制作

LIPHLICH TIMES 2『萬の夜に鳴くしゃれこうべ』

昨年11月、政府宛に届いた一通の声明文が世間を震撼させた。
それは、孤高の犯行組織「リフリッチ」の実に三度目となる襲来予告。
国内全土に渡って前代未聞の厳戒態勢が敷かれ、彼らの姿を射止めようと連日一睡もせずにカメラを構えた多くの記者たちもそのときに備えた。
しかし、一瞬の油断をサラリと掻い潜ったアノ四人に我々はまたしてもしてやられてしまった様だ。重い瞼を擦り振り向けば、町は既に祭りの後。
狂喜に沸いた民衆の乱雑な足形が生々しくかたどられた大地。
そこに冷静さを保った一際優雅な足跡が一本道を成していた。
きっとそれが彼らの軌跡なのだろう。落胆する記者陣をよそに「リフリッチの姿を見た。」と言ってきかない狼男は、あの日から絶えずうわ言の様にこんなことを呟きつづけているという。
「まさか猫を被ってくるとは…」と。謎は深まるばかりだ。———コラム「こわれない」(中段文章)———さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
コチラにあるのは、世にも珍しい大人のジェラート『萬の夜に鳴くしゃれこうべ』だ。舌がピリつく程のアルコールを含んだ「物言う吐息」。
そいつに鼓膜がヒクつく程の愛と憎しみを歌わせたらどうなることか。
ただならぬ予感に眉をひそめていたら、そら見ろ艶めく歌声に頬赤らめた楽器たちがアチラの空で鳴り出した。
御耳のイケない深度にまで及ぶウィスパーボイス&アコースティックサウンドが奇跡的に鉢合わせた「空間」そのものをマフウバの要領で銀盤に閉じ込めてみたところ、またしても革命的ロック名盤が完成してしまったみたいだ。
なんせ私は販売を生業とする者。
客人の安全を第一に考え「混ぜるな危険」の忠告を添えておきたいところではあるが、生憎危険なお歌と罪作りな音色のバラ売りは承っていないのであしからず。あしからず。あしからず。

と、必死にこうべを垂れていたところ、今度は忙しなく幾夜を行き交うヒトの鳴き声が…ドチラから?
風の噂では、唐突な別れの宣告がその起因だという。
鳴りやまない虫の知らせは、いつだって万人を不安にさせるものだ。
誰もが誰もに言い聞かせた「形あるものいつかは壊れる」。そんな悟りの呪文もそろそろ使用期限切れ。
「絶えても尚、作品は残り続ける」という慰めにそっぽを向いた孤独たちが群れを成し、ついには本音を吐き出した。
「果たしてこの呪文で癒せた傷なんてひとつでもあったのだろうか。疑惑を枕に眠る夜はもうこりごりだ。」と。
そこへすかさず横入り!「それならいっそ形なきものを愛してみてはいかが?」「再録するたびに」どころか「演奏するたびに」姿を変えていく魔法の様な音楽をお金で売って差し上げようというご提案。

そう。「リフリッチ」とは単なるバンドの名称でも概念でもなく、そこに巻き起こる現象を指すもの。
それ故に絶えることも崩れることも壊れることも知らない。
この春、そんな無形芸術の海に溺れてみてはいかがかな。

さぁ酔ってらっしゃい魅せられてらっしゃい。足元すくわれ捕らわれたが最後。
あなた VS リフリッチ。
不 思 議 魅 惑 な 逃 走 劇 の は じ ま り は じ ま り 。