レビュー記事

ギャロ『INCUBUS』

バナナじゃ蚊も殺せぬ向暑の候、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
ヴィジュアル系から刺激の補給、足りていますか?
おや、なにやらすっきりしない面持ちで。

「2000年問題疑惑に日本が震えてから早19年。
ここらでひとつ、退屈な私生活に極上のスパイスを、とおっしゃられるのであれば迷わずコチラのバンドをあてがいましょう。
「個性個性というけれど、ありゃあいいってもんじゃない!」地球のどこかからそんな声が聞こえてきそうな狂人的心癖を患った破廉恥極まる4人組。その名をギャロと申します。
良い機会です。是非ともページ左下の御写真をご覧くださいまし。どうです。開いた口が塞がらないでしょう。
こんなにもナチュラルに「普通のニンゲン」が確認できないアーティスト写真もそうそうございません。
でも、この近寄り難い(近付きたくない)奇人オーラこそがヴィジュアル系の醍醐味だった様な…違いましたっけ…

独自の集計方法により算出した「ヴィジュアル系界における曲中での総殺害者数ランキング」において、ここ数年ぶっちぎりでナンバーワンを獲得し続けているのが、当バンドの作詞者ジョジョさん。
犯され姦され侵され…と、残虐な事件の数々をモチーフに人間の歪んだ性と情念を切り取る彼ですが、一口に「死」といっても彼の描くソレは「感情の一途による衝動的な殺害」や「心を病んだ者の自害」といった、表層をなぞっただけの薄っぺらなものではなく、加害者がその行為に至るまでの苦悩・葛藤・切迫・憔悴そのすべてにおける心理描写がダイナミックかつ繊細に(矛盾じゃない)描かれている点が特徴であり、インタビューで「普段こんなことをしたいと考えているわけじゃないですよ」と笑う彼の言葉に心から安堵してしまうほどの臨場感を孕んでいます。
それはまるで疑似的な殺人を体験させられている感覚。
ギャロの音楽に惹き込まれている間のあなたは「脳内にジョジョを飼っている」といっても過言じゃございません。嗚呼なんと恐ろしい。

と、のっけから殺害だの死だのと煽ってはおりますが、今回ご紹介するのはこれまでと少し趣向の異なるナンバー『INCUBUS』。
一音を発しただけで声の出処が彼以外の誰でもないことを知らされる超がつくほどの猛癖歌唱で聴き手の心にあがりこんでくるジョジョさんの言霊と、そんな彼をも変質者に思わせない、これまた一癖も二癖もある変態サウンドとの応酬を御覧に入れましょう。
再生ボタンに触れた直後にスピーカーから溢れ出すのはラーラリラーラーラリラララー♪となにやらとってもご機嫌な全員コーラス。
本作で一番のインパクトを残すであろうこの奇怪愉快なコーラスを贅沢にも曲のド頭に用意し、客人を迎え撃つ準備は万端なご様子。
そんな、深層心理の奥深くにまで根を張る開始20秒の誘惑劇に好奇心を刺激されちゃもうおしまい。

入口がこれですから、ここから始まる物語がフツウであるわけがございません。
歌詞に佇むは、淀んだ夜の空下で暗闇を彷徨う一人の女。
恋の遊戯に札束を積み、その金で思い思いに愛を買い夢を買い、男を買う彼女。
詩を素直になぞれば、一見水商売を生業とする男と上客とのラブゲームにも捉えられますが、実はこれ「ギャロとファン」の関係性を描いた作品なのです。
バンドのファンであれば誰しもに馴染みがあるライヴハウス、ステージで渾然と輝くアーティスト、高揚に突き上げられた身体から湧きあがる歓声。
そのすべてを比喩のオンパレードで限界まで卑猥に描写していくジョジョさんの詩才たるや凄まじいものがございます。
特に自身(ギャロ)の姿を『都会の影で目を醒ます腹を空かせた夢魔共』と呼び、夢売る悪魔の唄に狂乱するライヴ・観客の様を『風俗街の片隅に転がる楽園に喘ぎ声が響く』と表現する言語センスの秀逸さたるやもはや文豪の所業!

この楽曲はおそらくギャロ仕立てのラブソングと思われるのですが、これほどまでにねじ曲がった愛情表現に魅せられてしまっては、もう他所からの愛情に目もくれなくなってしまうことでしょう。
そんな不埒な目潰しの代償を聴き手に負わせながらも、それ以上の愛と夢を幾度となく生み出しては容赦なく喰らい尽くしていく4人の夢魔たち。
こんなにも見事な自給自足、DASH村の彼らですら知らないはずです。

そして、本作2番目の刺客『神風型駆遂艦・闇風』。
曲中のとある合いの手が異常なまでに邪心をくすぐるシロモノでして、このワンシーンにリリース当時の私は非常に悩まされたものです。
何故って、店内BGMで流れる度、その場面にさしかかると全意識が曲にもっていかれ、作業の手が止まってしまうという、キュートにして業務の進行に絶望的な悪影響を及ぼした問題作なものですから。

歪んだ好奇心を丸のみするその「場面」。
それは一度聴けばすぐにお分かりいただけることでしょう。
表題曲も、カップリングも、その他の楽曲に関してもそう。
彼らの歌にはサビとは別に「オチ」となる箇所が必ずあり、その一瞬にきらめく人懐っこいリズム&末代まで記憶されるであろうインパクト大な歌詞の愉快さが聴き手をバカにするのです。
「ノリノリで聴いてたけど、よく見てみたらとんでもねぇこと歌ってるな…」そんな驚きもギャロの専売特許。楽しまなきゃ殺られます。

全員が作曲をし、全員でコーラスを担当し、4人だけの音で最上級にして超絶妙なグルーブを生む。
そんな全員野球ならぬ全員バッター(守備なし)な勢いを7年にわたる活動のなかで一瞬たりとも絶やしたことのない創作欲・バンド欲にまみれた素敵な悪魔たち。

もうそろそろ夏ですし、コワイモノ見たさ以上の気持ちで手を伸ばしてみてはいかがでしょう。
彼らの偏愛極まる作品たちから絞れるほどに滲んだ音楽家としての絶対の自信とプライドをギャロギャロ(擬音)と摂取したなら、今夏の退屈対策はバッチリ。
「秋」来れど「飽き」はこない不朽の名作を手に、今宵、極上の悪夢を御堪能くださいませ。