アーティスト図鑑

TЯicKYのこと

TЯicKY【とりっきー】
千葉県の隣にあるという設定の「とりん星」からやってきた「アイドル」という設定の「十五歳」という設定のソロシンガーソングライター(これだけ設定じゃない)。通称トリ様。彼を愛するファンの総称は「ひよこ」である。
銀ギラジャケットに真っ白なスラックス、首にはマラボー(バブル期のディスコ姉さんがかけてるアレ)、それにくわえてプロカリテ仕立てのサラッサラな長髪という、まともにつっこもうものなら日が暮れそうなミテクレの男だ。

ピコピコピュンピュンしたキュートなデジタルサウンドのなかで繰り出される乙女心全開の歌詞が武器であり、そういったタイプの子が好みなのか、歌詞に登場する女子はどいつもこいつも健気で天真爛漫で、ちょっとわがままで根暗な気質。くわえて、容姿に恵まれず、お金もなく、いつもお腹を空かせている子ばかりである。
「ラクトアイスは嫌。アイスミルクじゃないとダメ」やら、「BABYでお洋服揃えたい」やら、「ピーマンの肉詰めは中の肉しか食べない」やらと、理想・わがままの基準がとてつもなく庶民的なことも特徴。
「綺麗な人」や「可愛いもの」など、憧れの対象に目をキラキラ輝かせる彼女たちの言葉は「年相応」という呪縛に苦しむ夢見がちアラサー&アラフォーウーマンにとって大きな支えとなることだろう。

一見イロモノにしか見えないが、その実態は大変優れたメロディーメーカーであり、人懐っこい歌詞のインパクトも相まって、物覚えが悪い人でも二度聴けば一緒に歌えるような楽曲揃い。
代表曲『シャンプー☆プロカリテ』をはじめとする面白可笑しい楽曲群のなかに『とびきりコンプレックス』『恋愛定義・「仮契約」』などといった「普通にじーんとくる曲」を混ぜてくる点も実に憎い。

抜群の運動神経の悪さを駆使したステージングも味で、自分の考えた曲のリズムにまるで追いつけていないドタバタなフリは愉快そのもの。それを反面教師にしてか、ひよこ隊の面々は恐ろしい程機敏で熱く、「見本はむしろ客席にある」と思わされる頼もしさだ。
楽曲のメッセージ性同様、不器用でも精一杯に自分を輝かせ、その場にいるすべての人を本気で楽しませようとする気概はそこらのアーティストと一線を画すだろう。
歌声に関してはTHE地声なのであまり言うことはないが、時折見られるのぶ代版ドラえもんの様なわんぱくボイスが妙に可愛いから困る。

そして、彼を紹介するうえで忘れちゃならないのが「文才」である。
「POP UNITED」というフリーペーパーで担当していたコラムは、活字嫌いな人間をもしっかりと楽しませてくれる記事ばかりで、「このほろ苦い思い出たちがトリッキーというアーティストを作ってきたのだろう」と感させられる「笑える不幸話」がマァァアア秀逸なのだ。
「笑わせる文章を書くのが一番難しい」という話を聞いたことがあるが、彼はそれを誌面だけでなく、あらゆる制限のある「歌詞」でもやってのけるのだから、その多才さには驚かされるばかり。
こちらからすれば「うそーん…」というようなことであっても、闇雲にふざけているわけではなく、彼はそのすべてを至って真剣にこなしており、その目に迷いはない。だからこそ、余計に面白く、心底和むのである。

活動に関する発言を追うと、根は凄まじく真面目で慎重で更に頭が相当キレる男であることも容易にバレる。
まっすぐでピュアな彼がいつか鳥のように世間へ羽ばたいてくれることを願うばかりだ。でんでん。

用例:「対バンじゃ 9割アウェイだ ━」(嘆きの一句)