わたくしごと

娘の趣味はR指定

「マウンテンゴリラとニシローランドゴリラの計2点で宜しいですか?あ、ヒガシローランドですね。失礼致しました。」

「ウサギが2つと、パンダが1つ…変態が1つに血液が1つ…」

「自販機でコーヒー押したらおしるこが出てきちゃったと、パンの丸を点々に変えたら盤…ですね…」

こんなセリフを常日頃から唱えていると、自分が果たして何の仕事をしているのか分からなくなることもありました。
「はてさて、そう言う君の職業は何だったの?」と問われても、早々に答えてしまうのもなんですのでヒントを差し上げますね。ヒントはCD屋です。正解はCD屋です。

そう。ヴィジュアル系のCDには、変わったタイトルやタイプ名が多く存在し、冒頭のセリフたちもそれらを指しています。
こうなってくると電話口で予約を取るのも至難の業で、上の様な「言い慣れはしないけど、特別気恥ずかしくなることもない」程度のものであればまだ良いのですが、中には妙にピンクな単語が含まれているものもあったりして、商品名の復唱が公開式セクシャルタイムになることもしばしば。

パッと思いつくバンドでいうと、一昔前にシーンを席巻していた蜉蝣やヴィドールなんかが顕著かな。
私のブログは10年前から「ヴィジュアル系とミッフィーの愛らしさ、そして蒸しパンの断面に宿る芳醇な香りとミルクティーの存在価値を健全な言葉で伝える」をモットーにしているので、敢えてそのキワッキワなタイトルたちをここに記すことが出来ないのが残念でなりません(最近流行りのコンプラコンプラ)。
リリース当時にCDショップで働いていたスタッフ、及び電話予約をされたファンの方々はこの商品名たちとどう戦ってきたのか、気になるところです。
ただただ女性にその言葉を言わせたいがために必要ない予約をする様な変態男がいなかったことを願うばかり。さすがにそれはないか。
なんだかんだと言ってはみても、これもアーティストが抱える立派な個性のひとつなので、ウェルカムっちゃウェルカムです。”普通”は退屈ですからね。

ヴィジュアル系なお仕事をしていれば、そういった局面に立つことは少なくなくもなくもなく、それは何も「作品名」に限った話ではございません。
今回タイトルにあげたR指定に関しては、バンド名そのものが禁仕様であり、更にそれは単語としてだけでなく、後につづく至ってフツウな言葉をも容赦なく禁句テイストにしてしまうのですからso厄介。

これは、もう何年も前。私がR指定のインストアイベント(撮影会)で会場外の警備をしていたときのことです。
R指定といえば、ヴィジュアル系好きに知らぬ者はまずいないであろう超売れっ子。
現代シーンにおける数少ないカリスマヴォーカリストマモさん率いるモンスターバンドでありますからして、言うまでもなくイベントは大盛況。
「下火だ下火だ」とV系シーンを揶揄する多くの人々を嘲笑うかの如く、毎度毎度店の床が抜けるんじゃないかと思う程の動員数で、業界で働いているすべての人間が彼らから多大にして膨大なる恩恵を受けていることは誰の目にも明らかです。
その日もそれを実感せざるを得ない賑わいのなか、スタッフは右へ左へと動き回っておりました。

と、そこへ中学生と思われし女の子とそのお母様が。
一見してキラキラとした面持ちの娘さんは、スタッフジャンパーを着ている私を見つけるなり、早い整理番号が印字されたチケットを差し出し、駆け足気味で地下のイベントスペースへと。
会場には、チケットをお持ちでない方をお入れすることが出来ない為、お母様にはお店でお待ちいただく様案内をさせていただいたのですが、頷いてはくださるものの、ずっと強張った表情でイベントスペースへと続く階段を眺めているのでした。
顔一面に「不安」の文字がフォントサイズ80pt(まぁ大きい)で浮かんでいるご様子でしたので、その場でお話を伺ってみることに。

聞くところによると、お母様は「ヴィジュアル系のイベント」というもの自体がどういったものなのかあまりご存じではない様で、娘さん自身も今回が初めての参加ということもあり、会場であるお店まで心配でついてきたとのことでした。
心配される様な環境でも内容でもないことをお伝えしつつ、娘さんがお戻りになられるまでちょこちょこ会話をしていたのですが、およそ5分おきに「娘は大丈夫でしょうか?」「大人がついていかなくても安心ですか?」「子供ひとりで行かせるのは心配なのですが…」と神妙な面持ちで尋ねてこられました。

人によっては「過保護だなぁ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、特に中高生のファンを多く抱えるバンドのイベント時にはこういった不安混じりのご質問をいただくことが決して珍しくなく、こちらとしてはむしろ当然のことだとも思っておりますので、その都度丁寧に対応をする必要があります。
だってね、考えてもみてよ。
場外ですら上下左右を見渡せば、お父さん・お母さん世代が会社やご近所で遭遇することなどないであろう艶やかで危険な雰囲気のバンドマンのフラッグやポスターがバシバシ展示してあるわけですから、この階段の先の密室で何が行われているのかなんて未知の世界のお話でしょ。

「安心してください。中にはスタッフもおりますので。」とお伝えしても、やはりそこは愛娘。
「場内にスタッフがいる…ということは…スタッフがいなければ安全を保てない様なイベントが行われているのでは…oh…マイドーター…ウォーリー…」と、かえって不安を煽るような結果になってしまうこともあるわけです。

で!です。本題はここからよ。
前述の通り、ことR指定さんに関してはここでの説明が特に困難なのでございます。
御相手は「R指定」というバンド名をもご存じでないお母様。
ここでもし、対応したスタッフが「ありのまま」を簡潔に伝える人間だったとしたら…

母「あのー…私はこういうイベントについて全然詳しくないのでお尋ねしたいのですが、娘は大丈夫でしょうか?まだ中学生なのですが…」

スタッフ「大丈夫ですよ。スタッフもおりますので。」

「スタッフさんがいなければならない様なイベントなのでしょうか?」

「いえいえ。そういったわけではなくて、進行や整列に必要な人員ですのでご安心ください。」

「中ではどんなことが行われているのですか…?」

「R指定の撮影会です。」

「ア、アール指定の撮影会!!?」

「はい。青春はリストカットのイベントでして。」

「リッ、リストカット!!!ドータァァアアアアアア!!!!!」

ヒュー想像するだけでおっかねー。
とはいえ、我が子の趣味に首をつっこみたがる体質の親御さんですと、娘さんの好きなバンドの名前くらいはご存知なことが多いですし、中には既に片足突っ込んでる系マザーもいたりして、「下に本物の七様がいるんですか?」と、トキメキを隠しきれない表情でその場に立ち尽くす方もいらっしゃるので、それはそれで対応させていただくのも楽しく、「なんなら一枚購入いただいて参加されてみてはいかがでしょう?」と場外営業をすることもあったりなかったりニヤリニヤリ。

実話とはいえ、こんな話のメインにもってこさせていただきながら何だって話ですが、R指定はV系シーンの宝の様な方達だなぁと、月日が経つ毎にしみじみ感じています。
「若気の至りが故」と捉えられても不思議ではない突き抜けた青いバンド名で末長く活動をされていると、その名と音楽性が経年と共に分離していくアーティストも多いですし、なかには「バンド名を変えた方がいいのでは?」と、余計な助言をしたがる大人もいるものです。
しかし、彼らに関していえばその名に恥じることなく今も尚「青春の闇」を謳歌し、着実にそのステージを大きくしつづけています。
一時的な現象ではないことから、これはメンバーさんのキャラでも法則に則った戦略によるものでもない、完全なる「音楽の力」による功績に違いないのです。
彼らの10曲が別の10バンドによるものだと誤認させられる程の卓越した作曲レパートリーと良質なメロディーを量産するマモさんの才能は朽ちることも褪せることもなく、私が勤めていた7年の間にリリースされた作品たちはどれも「秀逸」そのものでした。
「青春の闇」といっても、その一点に滞留するわけではなく、徐々に徐々に大人びていく作品のメッセージ。
最愛のそれと手を取りあって、同じ時間軸の上で成長していけるファンの子たちはさぞかし幸せだろうなぁと、彼らの新作を手に目に耳にするたびに感動を覚えるばかりです。

R指定にしても、己龍にしても、vistlipにしても、DIAURAにしても、DEZERTにしても、ホールクラスで活躍しているメンバーとリリース毎に直接触れ合えるだなんて、とんでもない時代だわ。ねぇ昭和生まれの同志たちよ。同感ならRTでもしといてよね。

最後になりますが、私が初めてイベントの撮影スタッフをすることになったとき、チェキ撮影の練習に手間取っていたら、「大丈夫ですか?テスト撮影しましょう。」と自ら声を掛けてくださり、「もうちょっと寄りで撮った方がファンの子が喜びますよ。」などと、数々の助言をくださった七星さんという鬼親切な九州男児がいらっしゃる優男バンドであることもここに記しておきます。
あまりにも自然なエスコートだったので、常日頃から人を気遣える方であることも明らかで、確実にそのときのことなど覚えていらっしゃらないでしょうが、感謝の気持ちは何年経っても消えはしません。
いじめも親切もそう。した方は忘れていても、された方は覚えているんですぜ。

「私もああいう男になりたいわ」と痺れつつ、『少女喪失』聴きながら文章でも作るとします。
それではみなさまごきげんよう。良い夜をお過ごしください。

R指定『毒廻る』についてのあれやそれ