制作

amber gris Franny note page.9『小さな銀貨を左手に』

あざちゃん
あざちゃん
2015年4月26日。amber grisのLAST INSTORE EVENT時に入場口で配布したペーパーです。

 

「はじめからずっとずっと大切だった」
つまるところ、きっとそういうお話なのでしょう。

大切なものを失わなければならないと知ったとき、私たちは「最後だから」という理由づけの下、目の前に残されたものを過保護に扱う癖を患っています。
ときに、それを「きちんと愛せているのか」さえ判断がつかなくなる不安に怯えながら、まるで「大切」の脆さを忘れてしまったかの様に、加減を失った腕で強引に抱き締めようとするのです。

でも、実際のところはどうなのかしらと。
思い返してみれば、amber grisとの別れが近付いていることにこれっぽっちも気付いていなかった頃から、私たちは彼らの唄とステージを丁寧に受け止め、その美しさと気高さに泣かされつづけてきたのです。
強い信念と心地良い音色に涙腺が溺れてしまうわけも、つい先日迎えたばかりの新譜がこんなにも愛おしく、彼らのファンでいられることが誇らしくて仕方ない理由も「最後だから」ではあまりにお粗末でしょう。

自惚れの「理解」を好まない詩人の神経質な苦悩と思想は、野良猫ほどに扱いづらいもの。
時折ファンが置いてけぼりにされている錯覚に陥ってしまうほど、同じステージに立つ者への愛と敬意が過ぎるアーティストなんて、世界中熊谷中秩父中探し回っても手鞠さんしか居ません。
更に、そんな繊細で澄んだ感性を濁さず潰さず、最上級の愛をもって迎え入れられる楽隊もまた、kanameさん・wayneさん・殊さん・ラミさん以外に存在しないのです。
そう思えば想う程に「ワシントン条約がバンドも保護してくれたなら…」なんて無茶を願ってしまいます。

そんな皮肉大国の長率いる涙売りの隊商amber grisが冬枯れの季節に植え付けた『Across the blow』という種は、受け手の大きな愛に育まれ、春うららかなこの季節にきちんと芽吹いてくれた様です。
いつになく朗らかな表情で彼らが歌ったのは「人の弱さと、そう在る美しさ」でした。
近く訪れる別れが決して恐れと失意に塗り潰されるものではないことを約束してくれる、残酷なまでにあたたかい希望の唄。
尊い生命の終焉を鮮やかに彩るエンドロール『arch.』にのせられた過積載の想いは、聴き手の未来を案じて綴られた手紙であり、その一方で共に歩む4人の戦友へ宛てたラブレターにも思えます。
無垢にきらめくリズムと旋律はときに無邪気にときに切なく、あなたがamber grisと育んできたいくつもの思い出を何度でも映し出してくれることでしょう。
乗り遅れない様、見落とさぬ様、摩擦で擦り切れない様、壊れかけた回転木馬の速度で。

架空の物語でも空想でもなく、スピーカー越しのあなたの目線まで身を屈め、互いに抱える痛みを確認しあう様にひとつひとつの想いを丁寧に切々と説く姿。
これまで散々泣かされたのにも関わらず、その誠意を疑う術など私たちは持ち合わせていないのですから、まったくよく教育されたものです。

まるで形あるものを良く思わないかの様に、世の中から「モノ」の価値が薄れていくこの時代。近い将来、「CD」という夢をのせた円盤も容易く淘汰されてしまうのかもしれません。
しかし、私たちはそんな技術の進歩に現を抜かす傍ら、「いくら便利でも、楽曲にまるで魅力を感じないなら意味がない!」と、そのモノに対する本質的な意味と意義を冷静に見抜いちゃう「やや器用」にして「超わがまま」な生き物です。
今よりもずっと未来的なツールが世に普及し、「CDは音が悪い」と言われる時代がやってきたとしても「それでも私は、amber grisのCDを持っている」と自慢げに笑える日が来るのなら、そんな未来さえ待ち遠しく思えてしまいます。
銀盤に刻まれた熱は何百年先も劣化などしませんし、何よりここに込められた愛と感謝、思い出の重みは、かさばりすぎるくらいがちょうどいいのです。
最期の最後まで、「在るべき形」でその御手元に彼らの作品をお届けできたことをいちCDショップとして心から嬉しく思います。

さぁ、間もなくかの有名な生ける有形文化財amber grisが当店自慢の48階段を下り、あなたの目の前に現れます。
自分が好きで欲しくて勝手に買ったCDで、アコースティックの生演奏まで堪能できてしまうなんて、この幸せ者めが!
なんて、接客業らしからぬ暴言をお見舞いしながらも、この文章のおしまいに3つの切なる願い事を。

どうか、今日という日の思い出が未来に鳴り響く『arch.』の走馬灯を飾る素敵な一片となります様に。
来年以降のフラニ―を襲うであろう新種の「五月病」があなたにとって心地良く愛らしい痛みを伴う病でありますように。
そして最後に。「ZEAL LINKでイメージすることは?」に即答された「あごグイ」に勝る今日であれ!ラミさんッ!(根は深い)