わたくしごと

確認の虫

先日美容室に行ったときのお話。
「後ろはこんな感じになっています。」と誇らしげに鏡を持つ担当のお兄さんの手元を見ず、いつもの様に「あぁ、大丈夫です。ありがとうございます。」と返答をしたところ、これまたいつもの様に「やっぱり見てくれない!せめて一回くらいはちゃんと確認してくださいよ!」と嘆かれる。
もう担当してくれて6年も経つんのだから、そろそろ学んでほしい。私の気質を。
いくら髪を切ったところでこの顔だ。変化なんてたかが知れているのだから、あの時間に私が確認したいものなど何もないのさ。

その後、髪を洗ってもらうべく、シャンプー台へ。バタンと仰向けに。
「体勢は苦しくないですか?お湯加減いかがですか?流したりないところはございませんか?」の全質問を「大丈夫です。」で一蹴して差し上げる。
もう担当してくれて6年も経つのだから、学んでほしい。私の気質を。
仮に体勢が苦しくても、お湯が沸騰していても、頭が泡だらけでも、それに注文を入れるほど強気ではない私からすると、悲しいことにそれらすべては愚問なのだ。

心地良いシャンプーにウトウトしていると、隣のシャンプー台にいる女性客の声が聞こえてきた。
どうやら担当さんとの付き合いも長い様で、お喋りが止まらない模様。顔の上にガーゼをのせられているため、視界は真っ暗。
そうなると、やけに耳が敏感になるもので、特別聞く気がなくても女性と担当さん(男)の会話が耳に入ってくる。
どうやら、彼女は最近転職をしたらしい。話の内容と声から察するにおそらくアラフォーの落ち着いた女性だ。
彼女はこう言う。

「前の職場はどうしても人間関係が上手くいかなくて…でも、この歳の転職ってやっぱりすごく難しくて、本当に勇気がいるんですよ。案の定どこへ行っても門前払いで、でも諦めずにやってみるものですね。ようやく縁のあるところが見つかったんです。」

担当さんは「良かったですね。ほんとに。」と熱心に相槌をうつ。
「顔も明るくなりましたよね。」と彼が言うと、それを聞いた女性は「え!本当ですか!?」と喜びのリアクションを。
更に、彼。

「頭皮も柔らかくなってますよ。前はこんなに動かなかったですもん。ストレスが緩和されたんでしょうね。」

女性は嬉々とした様子で、「そんなところにも変化が出るものなんですね。」と言った。
なんともめでたく微笑ましい会話に頬が緩みつつも、その後の声を追ってみる。

女性「整体の先生にも肩の凝りが解消されてるって言われたんですよ。」

美容師「そうなんですか。でも、確かに変化は出てますよ。前はこんなに頭皮動かなかったですもん。」

「心と体はやっぱり繋がってるんですね。」

「そうですね。前はこんなに頭皮動かなかったですもんね。」

「転職して良かったってことですよね?私はこれで良かったんですよねきっと。」

「もちろんですよ。それが体に出ているわけですから。だって、前はこんなに動かなかったですもん。頭皮。」

担当!話ベタか!

あまりにしつこい柔らか頭皮の連続公演により、笑いをこらえるのに必死な私。
呼吸でガーゼがプカプカ浮いて、頬辺りがやけにくすぐったい。
そんなこちらの気も知らず、その後も彼らは何度も同公演のリバイバルを繰り返す。
心のなかで、「そんなに動く頭皮なら、もう川口あたりまで行ってる頃かな…(ちなみにこの美容室は浦和)」と、余計な想像までもくもく湧いてきやがる始末。
あのときの私はきっとシャンプーをしてくれている担当さんの話をほとんど無視していただろう。申し訳ない。

彼らの会話は終始温和な雰囲気ではあったが、そのやりとりを聞いていて、ひとつ気になることがあった。
というのも、やわらか激動頭皮レディーはしきりに「これで良かったんですよね?」というセリフを繰り返していたのだ。
そして、彼にそれを肯定してもらう様誘導するような質問(っていうと言葉は悪いけどネ)もいくつかしていて、その不安げな口調からなんとなく「少し後悔している部分もあるのかな?」という邪推が私のなかに生まれてしまう。
この女性に限らず、苦悩をこえた、もしくはこえかけている人がこんな感じの質問を投げかけてくることっていうのは結構あって、それに遭遇するたび聞いている側としてはなんとも言えない気持ちになる。
さて、今から少しだけ話がズレる気がするけど、ここは私のブログなので良しとしよう(王様)。

そこまで親しいわけではないが、3年前に結婚をした知り合い(女性)から「ツイッターやってるから今度見てみてよ!」と言われたことがあったので、思い出したタイミングでときどき覗いていた。
すると、そこには「夫にこんなことしてもらった」「夫がこんなものを買ってくれた」「夫との時間が最高」「夫はこんなにも私を思ってくれている」と、仲睦まじい様子が多く綴られていて、私は特に疑うこともなく「幸せそうな夫婦だなぁ」と思っていた。
しかし、後日話をする機会があったときに彼女が夫の愚痴(笑えないレベル)を延々話してきたときは絶句したものだ。
彼女が見栄っ張りな性格であることはなんとなく知っていたし、まぁ女性であれば「そんなのよくあることだよ」の一言で片付く話なのかもしれないが、なかなかにピュアな心を持っている私からすると終始「…」な心境だった。

しかし、その日も彼女はSNSで旦那自慢(買ってもらった高価なブランドのバッグ画像付き)を呟いていて、その投稿に対し「素敵な旦那さんで羨ましいです!」とリプライをつけている全ての読者に「そうでしょ?」とまんざらでもない返答をしていた。

私はまた、邪推してしまう。
本当は、彼を選んだことを後悔しているのかな?
だから、結婚生活における良い部分"だけ"を切り抜いては、公にそれを発信し、羨ましがられることで「私は間違っていなかった」と自身に言い聞かせたかったのかな…と。

考えすぎと言われればそれまでだし、彼女たちが幸せなら部外者がああだこうだ言うようなことではないけれど、その「喜び」の形をした"何か"がなんとなく捻じ曲がって見えてしまったのが少し悲しかった。

冒頭の話からそれた様で、実はそうじゃない。
全く別の境遇にある頭皮姉さんとブランド姉さん。私には二人が同じに見えてしまったのだ。

ただ、ただね。
それが例え見栄であったとしても、自慢出来ることがあるっていうのはとても素敵なことよ。
私には、自分自身を誇るに値する「自慢」なんてものがまるでないから、純粋にねたましい。
というわけで、結局のところ「羨ましいなぁ他人どもよ」という単なる嫉妬系雑談で、今日の日記は幕を閉じるのでありました。

あ、そうそう。
その後、ドライヤーで髪を乾かしてもらっているときにちょっと気になったから、「僕の頭皮って固いですか?」と担当さんに尋ねてみたところ、「こんなに柔らかい人いないってくらい柔らかいですよ!ストレス一切なし!って感じですか?」との回答が。失礼な!ストレスくらいあるわい!おやすみわい。