アーティスト図鑑

アマミツゝキ 眞田一航のこと

眞田一航【さなだいっこう】
十一年に渡る活動において、最後までヴィジュアルが垢抜けなかったことで知られる『東京ミカエル。』のヴォーカリスト。
O-WESTでの解散ライヴ後、長い長い沈黙を抜け、現在は『アマミツゝキ』というソロプロジェクトで活動している天下無敵の感傷シストである。

バンド時代も含め、リリースした楽曲の実に九割九分九厘の作詞・作曲を手掛けるTHE音楽家であり、兎にも角にもメロディーメイクのセンスが異常な才人。
ひとりの脳から創り出されているとは思えぬカメレオンコンポーザーっぷりとは裏腹に、その多種多様な旋律のうえで歌われる彼の詩世界の多くには恐るべき共通項(芯)が存在する。
それは、実にその九割九分七厘が「失恋ソング」であること。
恋愛ソングではなく、失恋ソングであることを今一度強調する。
ちなみに残りの二厘が「なんで僕のことを分からないんだお前らは!殺すぞ!ソング」、もう一厘が「はいはい良い御身分ですね!死ね!ソング」であることもここに記しておく。
その感情における統一感は、彼から離れることのない年齢不相応の純粋さが成すものだろう。

彼の綴る「こどもにも大人にも言語化できない感情」には、「忘れたつもりなおとなたち」の中からあらゆる童心を引っ張り出してしまう主作用がある。
くわえて、言葉では埋められない感情にも灯をともす掠れ澄んだハスキーボイスと抜群のコーラスワークによって、ぐんぐん加速していく致死量の切なさたるや、彼の言う「罪」そのもの。
恋にまつわる膨大な楽曲群において、想いが成就する作品など指二・三本でも余る始末である。
「俺らのなかに隠しておいたひ弱な感性をここまで赤裸々に歌うのは正直どうかと思うらー」とは静岡県清水市の全三十路男性の談。

かつて「失恋はつらいけど、悲しい思いをすればするほど良い曲が書ける」と自傷的告白をした彼に対し、「どうにか幸せになってほしい」という気持ちがありつつも、「こんなに素敵な曲が聴けるならまた失恋してくれても…ええんやで?」といった純然たる「エゴ」と「願い」との葛藤がファンの心を苦しませたことも記憶に新しい。

彼がバンド時代に愛用していたステージのお立ち台は巡り巡って今、リフリッチの不埒なやり手こと久我新悟が譲り受けている。
天才から天才へ。足元から伝染する双方の才能がもっと広く世に広まってほしい、とそう願わずにはいられない多摩区登戸民が後を絶たないという。

ハンバーガーには人一倍うるさく、割り箸の用意がない店では食事をしないという妙に潔癖な一面もあり、その「強いこだわり」と「いやに神経質」な面は、彼の生き写しである多くの楽曲にも表れている。
また、最新作に収録された『だめだこりゃ』のなかで嫌いな食べ物を一点集中で非難する様からは、彼の特性のひとつでもある「ちょっぴり幼稚な攻撃性」を垣間見ることができる。
自尊心が強く、しかしどうにも気にしいで、常にモヤがかった頭を抱えながら、定期的に大爆発を起こす。
そんな慢性的体内大出血で大忙しな彼から全てを奪う「恋」という超概念。恐れを覚えずにはいられない。

もう二度と聴けないと思っていた彼の新しい音楽にまた触れられる幸せは計り知れないが、それは同時に「あの切なさ」からの殺害予告でもあることを忘れてはならない。
大人のみならず、この詩が声がメロディーが、いつか小学生をも泣かせる日がくる。
そんな稀少種の可能性を抱える偉大なナイーブヤンキーのことを人は眞田一航と呼ぶのであろう。
あ、言い忘れた。チェブラーシカが好き。

用例:「静岡生まれ故、鼻の高さが富士山級だ━。」