制作

DaizyStripper『SIRIUS』

ヴィジュアル系界で「ベテラン」とされるバンド。
それは、シーンをかけて大切に守るべき存在であり、更にそのバンドの最新作が常に最高傑作を更新しつづけているとあらば、それを広めようとしないなど業務怠慢の極みです。
どういった心理が生んだジンクスかは不明ですが、長い期間活動をしているバンドには新しいファンがマァつきにくい!
これはきっと息の長いバンドを一生懸命応援されている方ほど強く実感されているのではないかと思います。
しかし、そんなこと知ったこっちゃないのが本コーナー。
DaizyStripperにとって決意の一枚となったMini Album『SIRIUS』の中から例によって一曲にピントをピンピン当て、彼らの魅力をA4いっぱいに敷き詰めましょう。

今回ご紹介するのは、珠玉にも程があるスロウバラード『SWEET DREAM』。
言うなれば、こいつは愛の飽和水溶液。
これ以上の愛と慰めを光ディスクに注ぐことは現代科学をもってしても不可能です。
何十年とヴィジュアル系を聴いてきたおやすみソングマイスターたちも納得の本作は、今日という日を一生懸命生きた人への最上級のご褒美といえるでしょう。

Dr.風弥さんによる優美なピアノから幕をあけ、ゆるやかに睡眠へと誘う音色に気が静まった頃、Vo.夕霧さんの澄んだ高音が降りてきます。

さぁ今日にさよならしよう
明日はもっと素敵にしよう
どんな時も忘れないで
君を必要としている人を

奇をてらった言い回しや、仰々しい感動を誘うような言葉もない。
そんな一切の飾り気をはらった歌詞も、この声に歌われてしまうとこんなにも光り輝く。
そこに鳴り響くすべての音色の間を縫うように泳ぐ歌声からは、「ただ、聴いている人にだけ真っ直ぐに届けばそれでいい」という慎ましい想いが感じられ、まるでこちらからの言葉を一切必要としない会話の様な趣があります。
そういった意味でいうと、この歌は「音楽」というより「ラジオ」に近い作品かもしれません。
言うなれば、FM Daizy『SWEET DREAM』。深夜番組確定。

日々訪れる小さな不幸や憤りを上手に消化しきれないまま、それでも前を向いて歩み続ける大人たち。
なんとなく上手くいかなかった今日一日の憂鬱を思いながら聴くこの歌の温かさは言葉ではどうにも形容しきれません。
人に弱さを見せるのを苦手とする人が何かの拍子にこの歌と出逢い、一度目の再生から涙が止まらなくなってしまう。
そんなことが何千・何万と起きても決して不思議ではない作品ですから、あらゆる企業の給湯室で『SIRIUS』の即売会を開催し、全国で働くすべてのOLに片っ端から聴かせて回りたいものです。

そして、この『SWEET DREAM』のなかで私が最も心を射抜かれた場面。
それは、感情の起伏がない穏やかな歌の中で、夕霧さんが唯一声を張り上げるこのシーンにあります。

大切な仲間(ひと)が言ってたよ 今日だけ頑張れって
よく頑張ったね 君を見てると 幸せな気持ちになるよ

夢見た何かが叶うまで自分を殺して頑張りつづけるのではなく、「今日だけ頑張ろう」というラフな気持ちで日々を歩んでいこう、という提案。
「前を向け!諦めるな!夢は願えば叶う!」といった類の応援歌が蔓延した音楽シーンにおいて、「甘えるな」でもなく「逃げてもいいよ」でもない、干渉なき優しさに満ち溢れたこの言葉は、多くの悩める人にとって救いの一声になるはずだと、そう信じてやみません。
実際、今現在何百周とリピートを続けながら文章を書いているのですが、この場面が近付くとつい手を止めて聴き入ってしまいます。実に素敵な一節です。

『SWEET DREAM(良い夢を)』というタイトルに相応しく、就寝前にもってこいな御歌にも関わらず、あまりの心地良さから「いつまでも聴いていたい」という欲が顔を出し、曲の終わりへ近付くにつれ「まだ終わらないでおくれー」と胸が高鳴った結果、なかなか寝付けなくなってしまう恐れもございますが、それもまた罪な魅力ということで…

そんな超一級品のバラード『SWEET DREAM』を含んだMini Albumですが、このページを読んで「どれどれ。聴いてみよかしらん」と手にされる方がいたときのために一言だけ忠告を。
本作品中、甘いのはこの一曲ダケ!!です。
蓋を開ければ導火線なしの爆弾『酸欠革命』が一斉投下されますので御用心。

そうそう。もしご家族にアラサーアラフォーの方がいたら是非一緒に楽しんでいただきたいのが『SUMMER VACATION』です。
醸し出す空気感の時代逆行っぷりが実に愉快で、思わず「古ッッッ!」というつっこみと笑みがこぼれてしまう最高のパーティーチューンでございます。
そして、忘れちゃならない本作のリード曲『DEAR MY SIRIUS』は、夕霧さんが最愛のメンバーに宛てたラブソング。
9年をかけて育まれた王道デイジー節にのせ、自信と誇りを声高らかに歌い上げたこれまた素敵極まる逸品なので、木綿のハンケチーフ片手にご賞味ください。

「DaizyStripperとは?」
そう問われれば、何も恥じらうことなく「愛」であると私は答えます。
兎にも角にもバンドからファンへ、またファンからバンドへ向けられた愛情の純度がとんでもないですから。
それは彼らの音楽・ライヴに触れれば誰にでも分かることです。

『ありがとう』と『愛している』という詩を言葉としてではなく、想いとして届けられるアーティストは稀有であり、夕霧さんはそのなかでもトップクラスの愛の歌い手だと思います。
「バンド名と”こっちにモッシュ!”は知ってるよ!」ってな方は、是非この一枚からDaizyStripper&トレゾア(ファン)による愛の渦に飲み込まれてみてください。

いやはや、間もなく10周年を迎えようというのにこんなにも落ち着かずギラギラしたバンドがかつて存在しただろうか。愛おしいぞデイジー!!といったところで、それでは皆様、SWEET DREAM!ぐっすり眠れ!