わたくしごと

「LIPHLICH TIMES 8」制作秘話 その2

「セットリストを掲載した方が記念品として、お客様も喜んでくださるのでは」

KINGの提案。
これまで、物を作るうえで人様の意見を一切取り入れてこなかった私でしたが、さすが事務所の長。
「それは素晴らしい。そうしましょう」ということで、まずは両面刷りの表面となる「ヴィジュアルポスター」の制作から入ることに。


デザインとしては、公演の告知としてオフィシャルから出されていたこちらの画像を使用しようと考えていましたが、カラーモード(印刷用にできていないデータ)の兼ね合いなどもあって、このまま出力してしまうと色味が悲惨になってしまうので、印刷用に同じ様なものをトレースして作ることにしました。
その後、出来上がったものを見たときに「やっぱりLIPHLICHはヴィジュアルのイメージも重要なバンドだから、これだけじゃちょっとシンプル過ぎるなぁ…」と思い、公演タイトルの軸となっている『SKAM LIFE』のリリース時に提供していただいたアーティスト写真と重ねて合成することに。
この『SKAM LIFE』という作品は、現体制でない頃にリリースされた関係で集合写真を使用出来なかったため、今回はLIPHLICHの首謀者であり、本奇怪公演の発起人でもあるVo.久我新悟さんの個人写真を使うことにしました。

2枚の位置関係やサイズ感・透け感・色味の細かな調整などなどに関しては書いたところであまり面白くないと思いますので割愛しますが、個人的には素敵な仕上がりになったのではないかと思っています。
印刷物特有の「モニターで見たときと仕上がりが違う」という失敗もなんとか免れました。
諸々の調整が済んだ画像はこの様な感じです。


よし、ここまで仕上がったぞ。それでは、セットリストを入れましょう。
あらやだしかし、思えばまだそいつを聞いていなかった。
そんなときは困ったときのKING頼み。セットリストを尋ねましょ。
そしたらば、KINGからの回答はこうだ。

「セットリストなんだけど、まだメンバーが決め切れてないみたいよん。絶賛急かし中!」
※何度も言うが非原文ママ

Oh!ここにきてまさかのLの地雷!
公演日まであと一週間を切ったというのに、まだセットリストをもんでいるとのこと。
演出・アレンジ面において、永年連れ添ったファンをも無限に驚かせてくれるLIPHLICHのことですから、思い入れの集大成ともいえよう本公演に「こだわりのすべて」を盛り込んでくることなど当然にして必然。
「これはますます期待が膨らむなぁ」と一瞬ファンの顔がチラつきつつも、「いや、ちょっと急いでくれないと間に合わないよ。あと2日で入稿しなきゃならないの!」と焦る私なのでした。

「先に出来るところからやっていかないと…」と、予めお聞きしていた先の活動情報(その時点では未発表)を裏面に入れ込んでいくことに。
ライヴへの期待はもちろんのこと、当時のLIPHLICHが醸し出す空気感から不安要素も多分に孕んでいる公演だったので、その先に「アルバム発売・全国航海ツアー」が待ち受けていることを知った私は、制作者の特権として一足お先に極上の安堵を得ます。とはいえ、それでもファンの方と同じタイミングで知りたかったけどね(小声)。

今回は、ライヴのコンセプトから連想した「ユリと聖書」をモチーフにし、シンプルに「破壊と創造」「生と死」をデザインの軸としました。表面で「黒い死」、裏面で「白い生」といった感じです。
これまでは、あれやこれやを切れや貼れやで比較的賑やかなものを作ってきたのですが、今回に関しては引き算引き算の連続で、仕上がったものは当初想定したものより遥かに素朴な装いになりました。

で、どうなんだ。進捗は。
表面のデザイン。
裏面のおおまかなレイアウト。
決まってるの
それだけ
にゅうこう
ふつかまえ
まじ
やばい

と、ここで焦らし上手なFのS、KINGから救いの報が到着。

「セットリスト決まったよん。よろしく哀愁☆」

縦にスラーーッと並んだ見覚えのあり過ぎる名曲たちの羅列。
それを見たとき、私は今の今まで考えていなかったひとつの障害にぶち当たります。
それこそが、ひとつ前の記事でチラッとお話した「ファンだもん。セットリスト知りたくないよ」問題であります。
どんなライヴにおいてもそうですが、そんな中でも特に!この公演には咽返るほどのスペシャル感が漂っておりましたので、「まっさらな状態で楽しみたい」という気持ちがあまりにも大きかった私です。
先程まではそれによる弊害など忘れた状態で「セットリスト早く!セットリスト!もう!」と喚いていましたが、実際届いたときに「うわーそうだったー知っちまうんだー」と分かりやすく絶望したものです。

私のクヨクヨを察したのか、KINGから「目に入れたくなければ、今回は無理してデザインに組み込まなくてもいいよ」という、どことなく含み笑いを感じさせられる優しい一言が。
飴なのか鞭なのか分かりゃしないその配慮に対する私の返答はこうでした(これに関してはスクリーンショット故、原文ママ)。

意を決した私はセットリストを睨みつけます。
もう何も恐れはしない。これは仕事よ。かかってきなさい。
しかし、その殺気の寿命は5秒。「覚悟」という名の盾をもってしても、一曲目に記された文字列に私は撃ち殺されるのです。

 

『SKAM LIFE(バラードアレンジ)』

 

一同(ひとり)唖然。
「なにそれ!あれをどうバラードに調理するのよ!やっぱり知らずにいたかったよーチューー!!!」と胸の内に住むネズミ(4才)が致死量の涙を流すのでした。
「やるんなら言っといてよ~」というセリフなら何度か聞いたことがありますが、「やるなら言わないでよ~」というセリフは自分史上初。それがまさか自分の口から出るものだとは。

※これが『SKAM LIFE』の原曲。超格好良いから観て!

いつまでも往生際が悪い私は、ただでさえ開いていない様な仕様の一重瞼を更に細め、セットリストをコピーします。
そして、先程の合成画像上にペースト。いわゆるコンペーってやつですね。
スカムライフバラードアレンジの報に一瞬意識を取り戻しかけましたが、連日に渡る寝不足の甲斐あって、良い感じでぼやける視界。

これは…いいぞ…

そう思ったのも束の間、若干でもフォントにピントを合わせようものなら、一種の職業病みたいなものが私を襲います。

「行間が気に入らない。字詰めもしなきゃ。そもそもこの字体じゃダサい。パッキリと白抜きした文字だと試行錯誤して加工したデザインが台無しになる。久我フォトに溶け込ませつつ、可読性も悪くないフォントと色と透過…」などと意識高めに色々考えだすと、否が応にもきちんとその文字ズと向き合わなければならなくなり、「もう無理!見る!見ます!覚えて!すぐに忘れます!」と一人やけになりながら仕上げたものがこちらです。


テストプリントも含め、すべての調節を終えたのち、一番時間のかかる「裏面の長文コラム作成」に入るわけですが、コラムに関してはまた後日お話するとして、それらの作業から入稿→自宅に納品→パッケージング→会場への納品までの間に、私にはもうひとつしなければならない極秘作業がありました。

その「やらねばならぬこと」とは、そう。
「このセットリストを当日までに忘れること」でございます。
「まだ言ってやがんのか貴様」という罵詈雑言など見透かされているぞ液晶越しのソナタ。
とはいえ、LIPHLICHファン(通称:ウェンディ)の面々は、珈琲でいうと大分深煎りな愛を注がれる人種であると認識しているので、なんとなくそれとなく私の気持ちも察してくださることだろうと、そう期待しております。

頭が悪いくせに記憶力だけは人1000倍ある私にとって、「記憶を飛ばす」という行為は極めて難しいことでした。
「忘れてほしいことだけは絶対君に話さない様にする!」と、これまで何人もの友人に言われ続けてきた”記憶の虫”である私の脳から「一度覚えた記憶を抜く」という作業は、広大な砂場から素手で砂鉄を全回収することほどに難儀。
そんな低学歴にして高記憶力な私が思い付いたたったひとつの忘却の術。
それは、「ゲシュタルト崩壊に至るまでLIPHLICHの曲タイトルを見続ける」という荒療治でした。
これらの名作を生んだ当バンドの奇才がかつて「文字を読まない1日」という題目で、「文字から逃げる」という行為に苦しんだ経験談を披露していたことがありましたが、私の場合はその逆。やるべきことは「たくさん見て、分からなくさせる」。
この行為は、「たくさん抱いて、浮気の罪悪感を薄れさせる」という発想に近い気がします。そして、おそらく書く必要がなかったであろうこの極めてダーティーな例えを今まさに削除しようかどうかとても悩んでいるところです(載せちゃう)。

サボテンの約3倍にあたるIQ6の頭脳で導き出したこの理論に基づいて、私はただひたすらにPCのプレイリストに入っているLIPHLICHのタイトル群を見続けます。
うろぼろすふらちふじょうりつうかいへびのかいほしのはぐるますかむらいふばらーどあれんじ…うう…といった具合に。馬鹿っぽく思えますが、本人は至って真剣です。

それを続けること1日、2日。
するとどうでしょう。徐々に奇妙に後半のセットリストを忘れていくではありませんか。
どうやったって「スカムライフバラードアレンジ」という強烈な文字列だけは忘れることが出来ませんでしたが、良い感じに薄れていく10曲目以降の記憶。そして9曲目の記憶…8曲目…7曲…左に上がっていく恍惚~

そうこうしている内にもバタバタと作業は進み、なんとか公演日に間に合わせることが出来ました。

そして、ライヴ当日「もうあとは楽しむだけだ」と熱い想いを胸に会場最後列にピタッと張り付く私。
暗転し、サイドモニターにオープニングの映像が流れ、緊張感に静まり返った私たちがステージへと視線を移した先には、その場にいた誰にも予想することのできない「イリュージョン」そのものが待ち受けていました。
「リフリッチやっぱすげぇなぁ…」と息を飲みながらも「一曲目、バラードアレンジやるんでしょ?」と少し怨めしい眼差しを向けていたのはここだけの話です。
そして、2曲目に入る際に「はいアルトラブラックねーいいよいいよー私この曲大好きよー」と脳内で愚痴を燻らせていたらば、ここでまさかの『ウロボロス』!!
いや、「まさかの」っていうのはもちろん曲順が変わったわけじゃなくてね、忘れてたのよ完全に!
「やってやったぞー!」と新種のアドレナリンが沸き上がってからというもの、そこからは唯の一ファンとして真っ新な気持ちで大名演を楽しむことが出来ました。
忘却術が効いていたことを実感したあの瞬間、テンションあがったなぁ…

ということで、私個人による苦悩劇その2でございました。
近日中に最終章「長文コラム書くなんて言わなきゃよかった編」をお届けします。
未だかつてないギリッギリな締め切りとの闘い。
「カメラ回しておけば良かった」と思うくらいに心が追い込まれた午前0時の憔悴を御覧ください。

つづく