わたくしごと

「LIPHLICH TIMES 8」制作秘話 その3

さて、表面のデザインと裏面のバンドスケジュール&大枠のレイアウト作成は完了し、残すは最終トラップ「長文コラム」のみとなりました。
この時点で入稿のリミットまで残り6時間。ただただやばい。そしてねむい。

「文章作成」
言わずもがな、最も脳と神経を消耗する作業です。
どのアーティストの制作物に関してもそうですが、私は「こういうことを書こう」と予め決められないタイプで、とりあえず思いついたことを一気に並べてみながら「こういう方がいいかな」と徐々に軌道修正していく手法でこれまでの文章ズを作ってきました(これ、超非効率)。
「何かをしながらでないと、何をしたいのか分からなくなる」という馬鹿一直線なマイ思考回路は、ひとつが止まると全部が行き止まりになってしまうお粗末仕様。
なもので、今回もとにかく「書いてみること」から始めます。
「LIPHLICHの歴史について分かりやすく書いてみよう」というぼんやりした案こそあったものの、それを念頭に置いて文を書き進めていく内に私の脳裏をモヤモヤ君が横断します。
モヤ君の主張はこうでした。

「そんな過去のこと、いちいち説明する必要あるか?」

確かにそうだ。
というのも、私はお店の展示物においても、冊子でのレビュー記事においても、共通して「そのバンドを知らない人に向けて書いている」という意識で文章を作ってきたのですが、今回のLIPHLICH TIMESに関して言えば、「LIPHLICHを愛している人」の手にしか渡らないわけで、初見さんへの気遣いなどそこには必要なかったのです。
それならいっそ「ファンだからこそ分かること」を目一杯文中に散りばめよう!と決意し、若干気が滅入りましたが、それまで書いてきた数千字を一気に削除。また一から考え直すことにしました。

ああでもねぇこうでもねぇ

そうして辿り着いたのが、「LIPHLICHの歴史を小説風に辿る」という案でした。
LIPHLICHの象徴ともいえるあの厭味なキャラクター「猫目の伯爵」を久我さんに重ね、これまでの活動を二次元的に書いてみようと。
いわば「許可なき二次創作物を公式の場で巻き散らす」という、これまた非常識極まる行為。
普通であればこんなことは許されませんし、仕上がった文章がろくでもなければ、非難されて当然の愚行でございます。
でも、今回はどうしてもそれをやってみたかったのです。
文章のゴールを決めてからは、それまで以上に神経質に言葉を選び、少しずつ文章を組み立てていきました。

※100枚以上書いては修正した文章の一部

いつだって邪魔をするのは、構成力の欠陥。

今までも、今も、一度で文章が綺麗に書けたことなど皆無で、馬鹿のひとつ覚えの様に試行錯誤の繰り返しです。
「ここの一文をこう変更しよう」それを実行したら、前後の流れが崩れる。
「読んでいると、ここの語尾でつっかかる」そう思ったら、何度も読み返して訂正する。
そんなことを延々と繰り返していると、だんだん自分のなかの正解すら曖昧になって、通常であれば「一回寝て、明日もう一度見返してみよう」となるのですが、なんせ入稿までのリミットがすぐそこだったので、今回は「今ある集中力」ひとつでなんとか乗り切るしかありませんでした。

過去にも何千回と言ってきましたが、私は文章を書くことも読むことも超がつくほど嫌いです。
それ故にその両方を同時進行でこなさなければならない状況というのは苦痛の極みあざらしですが、そんな私にさえ「やらずにはいられない」と思わせる素晴らしい音楽とそれを手掛ける偉大なアーティストが今でも多くいるという事実は、苦しくとも大変喜ばしいことです。
彼ら、及び彼らを応援している人のためでなければ、何一つとしてやる気になれませんから。
みなさんからどう見えているかは分かりませんが、相当な怠け者ですからね。わたし。

23時。入稿のリミットまであと1時間。
なにがなんでも誤字脱字だけはあっちゃならないので、行間や字間の調整をしながら、細かな校正は続きます。
毎度毎度なにもない「0」からの作業ではありますが、それが少しずつ形になって「もうすぐ出来上がる」と思えたときの安堵感は実に清々しいものです。
だがしかし、このときばかりは全く浮ついた気分になれず、最後の一分まで文章を練り、リミットの0時ピッタリに入稿ボタンを押しました。
入稿完了画面を見た瞬間に「おーわったーーー」とベッドに倒れ込んだのがまるで昨日のことの様です。

とはいえ、やるべきことはまだ終わっていません。
その翌日にA3サイズの紙を綺麗に収められるクリアパックを買いに出掛けます。
A4サイズのものであれば100均でも売っており、これまで配ってきたLIPHLICH TIMESは二つ折りにした状態でそれに入れて配布していたのですが、今回は表面をポスターとして使用していただきたかったので、折らなくても保管できるタイプのものが必要でした。
笑っちゃうほどの予算オーバーではありましたが、何軒か回った先のパッケージ専門店で納得の一品に出逢えたのでよし。

そして、その翌日!待ちに待った納品日です。
いくら入念にチェックしたとはいえ、仕上がりに不安を抱えるのは何年経っても変わりません。
仕事が終わり、家に帰ると大きな段ボールがドンッドンッと無事に納品されていましたが、開封するのがまぁ怖いことよ。ここでの不備は死を意味するからね。
カッター片手に覚悟を決めて、パカッと開けたらば。



Wao!ファンタスティック!
一枚抜き取って、誤字脱字がないかを鬼チェックします。
よしよし今回も問題なし!ダダッ!というわけで、感動もそこそこに次なる作業へ。
前日に購入したクリアパックへ完成品を詰めていきましょう。


無心で一秒も休むことなくミッドナイトツメツメ。
23時過ぎから始めたこの作業ですが、気付いたら空が明るくなっていました。
丸一週間まともな睡眠を取っていなかった身にとって、このエンドレス気味な単純作業は実に毒であり、「これが事前告知されているものであれば、さいたま市周辺に住んでいるウェンディの2・3人くらいTwitterで募って手伝ってもらったのに…」と、そんなことを口に出してしまうほど参っていました。

そして、一心不乱に袋詰めを終えたら、今度は事前に作成していた「告知解禁時間伝達ステッカー」の貼りつけ作業です。


裏面に記載されている最新スケジュールはライヴMCでの告知など一切なく、帰りに受け取るこのLIPHLICH TIMESをもって初めて世に公開されるものでした。
当日の23時にオフィシャルから正式に情報が発表されるため、「23時まではSNSにこの情報をあげないでね!」という文字を入れておく必要があります。
当初は、裏面のどこかに注意文を入れようと思っていたのですが、テンションがブチ上がってそれを見る前に載せちゃう方もいるだろうと予想し、KINGに「別でステッカーを貼り付けた方がそういった事態を回避できると思います」と直訴した結果、この様な仕様となりました。


まぁ結果的には数名程、配布直後に載せてしまわれた方がいらっしゃったのですが、それはもう仕方のないことです。
ここに掲載された情報がそれだけ「ウワァァアアイ!!」なハッピーニュースであることなんて、ファンの一人である私には痛いくらい分かりますからね。

ステッカー貼りも終え、もうお昼過ぎ。
再度箱に詰め直してからネムネムな目をこすり、そのまま最寄りのヤマト運輸へ。
大量のTIMESが収められた重たい箱たちを窓口のデスクにドカッと置き、ライヴ当日である翌日の午前着便で出荷!
もうこのときの達成感たるや、これまで経験したもののなかで文句なしに一等賞でした。
緊張の糸が一瞬で切れたせいか、ヤマト運輸の駐車場の車中で爆睡してしまい、ドライバーさんに起こされたのも良い思い出です。あれは恥ずかし申し訳なかった。

そして、ライヴ当日。
これまでの労いを讃えてか、私に素敵なサプライズが贈られます。


会場まで向かう道のりで、車線変更禁止の罪状をくらうっていうね。
「神なんてこの世にいねぇ」と思ったね。まじNoGoD。

怒る気持ちを抑えつつ、会場付近に着いたらば、ここで私が個人的に伝統行事としている「KINGとのかくれんぼ」が慣行されます。
どんな会場においても必ず私を見つけては、薬物の取引でもするかの様なテンションで「ありがとうございます」と背後から呟いてくるKINGの声は私にとってホラー以外のなにものでもなく、この日もどうにか見つからない様、開演ギリギリまで外で待機することにしました。
更なる予防策として、ローソン前でしっかり俯いていると、前方から迷いなくこちらへ向かってくる靴が私の低い狭い視界に現れます。
「うそだろ…」と思う隙もなく、聞き覚えのあるトーンで「渡辺さーん!」の声。
あらやだ爽やか。でもって、今夜も敗北。

完成したLIPHLICH TIMESをメンバーさんが確認し、とても喜んでくださっていたとのご報告を受け一安心。
「あーよかったー」と空を仰ぎ、怯えるものがなくなった私はトコトコとEASTの階段をのぼります。

肝心なライヴはというと、昨日もちょこっとお話した通り、得も言われぬ素ン晴ラシイ公演でした。
敬愛するLIPHLICH、及び親愛なるフジプロダクションに対し、「こんなライヴを映像化しないなんてどうかしてる」と憤怒の念を抱いてしまうくらいです。

あらゆる意味で緊張感の漂う公演だったため、「私の作ったものがどの様なテンションのお客様に渡るのか」という点がとても気掛かりでしたが、曲目が進んでいくたびに笑顔で飽和していくフロアの様子を見渡し、「このライヴの後に手渡されるには絶好のものだ」と、手前味噌ではありますがそんなことを思いました。

終演後、一目散に会場を出ようとしたとき、それを作ったのが私だということなど知る由もない制作スタッフさんから「フライヤーでーす」とLIPHLICH TIMESを受け取りました。あのなんともいえない照れくささもまた初体験でしたね。

なんとなく気になって、物陰から階段を降りてこられるお客様の反応を1分程覗いてみることに。
するとそこには、立ち止まって熱心に目を通している方、新情報にわいてお友達同士でキャッキャ騒がれている方、「どうしよう。折り目つけずに持って帰れるかな?」とあらゆる角度からバッグに収めようとしている方。その他、様々な好感触を示してくださる方々の姿を目の当たりにし、ここで初めて「作って良かった」と胸を撫でおろすのでした。
これまでの制作物とは違い、「受け取らざるを得ないもの」ではございましたが、手にして一度でも目を通してくださった方々には、今でもあの日と変わらぬ温度で感謝しております。

というわけで、長きに渡ってお届けしてまいりました「LIPHLICH TIMES 8 制作秘話」は、これにてお開き。
これに限らず、過去のTIMESもPOPも同じ様な気持ちで丁寧に作ってきたものばかりなので、もしお手元に一枚でもお持ちのものがございましたら、もう一度眺めてみていただけるととても嬉しいです。
「なにも持ってねぇ!」という方は、下のリンクから御覧くだされよ。

LIPHLICH TIMES創刊号『STUMP+』

LIPHLICH TIMES 2『萬の夜に鳴くしゃれこうべ』

LIPHLICH TIMES 3『SKAM LIFE』

LIPHLICH TIMES 4『7 Die Deo』

LIPHLICH TIMES 5『蛇であれ 尾を喰らえ』

LIPHLICH TIMES 6『発明』

LIPHLICH TIMES 7『VLACK APRIL#2』

LIPHLICH TIMES 8『SKAM LIFE’S IS DEAD』←今回ご紹介した号

それでは、皆様良い夜を。
リフリッチは良いバンドよ。
月食べずともおやすみよー。