わたくしごと

『トイ・ストーリー4』を観に

これ以上ない梅雨ッ梅雨の夜。皆様いかがお過ごしでしょうか。
鬱鬱としたさいたまは連日雨模様ですが、捨てる神ありゃ拾う神もあったもので、本日はvistlipの下手ギタリストを称えるべくして生まれたハッピーな祝日です。おめでたや。

昨日は、ご近所の映画館「MOVIXさいたま」へ『トイ・ストーリー4』を観に行きました。
これまで幾多の音源紹介をしてきた私ではございますが、「そういえば映画のレビューってしたことないな」と思い、今回挑戦してみようと思った次第です。
ネタバレが怖い方は、指の隙間から御覧ください。

さてさて、映画への造詣が皆無であり、更にアニメにもまるで興味のない私が何故に『トイ・ストーリー』を観に行ったのか。まずはそこからお話しなければなりません。
理由を問おう。
ZEAL LINKで長年共に働いていた映画通眼鏡君が頻繁に「トイ・ストーリーは最高ですよ!」と力説していたから?違います。
転職希望先の応募条件欄に「トイ・ストーリーを楽しめる者」との記載があったから?それも違います。
正解は、これです。

映画館の外観に堂々と掲げられた、この好奇心くすぐる文字!
私が指しているのは、「マルチプレックス」というプロレス技の様な文字列ではなく、その上手(通称:Yuh側)に光りし「DOLBY CINEMA」の方です。
この「ドルビーシネマ」とやらは、最先端の映像・音響技術を集結させた特別なスクリーンらしく、全国でも3つの館でしか導入されていないというレアっぷり。
その内の1つが何故さいたまなのかは極めて謎ですが、こんな近くにそんな環境が用意されているなら、「映画館見たさ」にちょっと行ってみたいなと思ってしまうのが彩の国の性。

MOVIXさいたま(さいたま新都心駅直結)の内観

チケット券売機に立ち、ピピッと購入を済ませようとしたところ、この日にDOLBY CINEMAのスクリーンで上映される回はレイトショーのみとのこと。
21:35からという深夜帯にまでかかる回なのにも関わらず、満員に程近い盛況っぷり。
「すごい人気だね」などと口走りながら、何故か奇跡的に空いていた中央寄りの席を確保しました。

座席番号をお見せしないのには理由がある

上映時間まで余裕があったので、ショッピングモール(コクーンシティ)内をうろうろしていたところ、楽しげな顔をしたにこるんが「ダブルの価格でトリプルに!」と訴えかけてくるポスターを発見。
バスキン・ロビンスのマリオネットと化した一行はサーティワンでアイス無双。
「LUNA SEAに”ナッツトゥーユー”みたいな名前の曲なかったっけ?」と思いながら、上映10分前に映画館へ潜り込みます。

DOLBY CINEMA導入のために改装されたスクリーン11。
足を踏み入れた瞬間に私の口から飛び出した言葉はこれでした。

「新車の匂いがする」

その匂いの正体は革張りのシート。
なんでも、「本物の黒」とやらを見せつけるべく、シートや通路は光の反射を防ぐ素材を使用しているんだとか。
更に、ゆったりとした座面確保のために従来よりも100以上の席数を減らしているみたい。
なるほど、こりゃあ確かにゆったりだ。座り心地も100点よ。

時は上映時間。
まだ少し明るい場内に新作たちの予告ムービーが流れます。
次から次へと流れるSPOT映像を観ながら、私はちょっとガッカリしていました。
というのも、映像も音響も大したことがなかったのです。
「なんでい。普通の映画館となんら変わらないじゃん」としょぼくれた矢先、最後の予告が終わり、ここで本気の暗転。で、超びっくり!

「く、暗すぎる(‘;’)!!」

その暗さたるや、街灯の消えた都立桜ヶ丘公園(多摩)の如し!
一年前に経験した「30cm先も見えない」あの本物の闇夜を思い出し、戦慄する私。
そんな私のことなど知る由もなく、まずはこの「DOLBY CINEMA」とやらがいかに凄まじいものかをアピールするイントロダクションムービーのお出ましだ。
スクリーンに映された真っ黒な背景、そのド真ん中には「DOLBY CINEMA」のロゴが。
すると、こんなアナウンスが響きます。

「今、あなたが見ているのは、本物の黒ではありません」

息を飲む我々に心の準備をする隙も与えず、スクリーンと壁の境界線を見失う程の漆黒が登場。
思わず「おお…」と唸る後列のカップルに同調しつつ、その技術アピールは音響編へ。
壁・天井一面に張り巡らされたスピーカーから流れる「臨場感」を遥かに超えた立体音響。
この破壊力を前に、私の同行者は分かりやすくビクッと肩をすくめていました。
「こんなんでホラーなんて見せられたら死んじゃうだろうな…」と震えながら、これまでの映画館では感じたことのない類の高揚を胸に、トイ・ストーリーの訪れを待ちます。

そして、ついに本編へ。
あまりの映像の美しさに「うわーうわー」と脳内ツイートを繰り返す私でしたが、開始から10分もしない内に「ある異変」に気付きます。それは、右斜め前のシートの隙間でモソモソと動く2つの影。
「なんだろう?」と視線を落とすと、そこにはトイなストーリーにおよそ似つかわしくないイチャつきを見せるカップルの姿が。
フライドポテトをお互いに食べさせあったり、チュッチュしたり、見つめあったり、頭を撫でたりと、座りながら出来る全てのラブ競技を遂行しようとする彼ら。
かの偉大なドルビーシネマ様を上回る臨場感たっぷりのイチャコラ劇に翻弄されていたところ、ここで更なるハッピーニュース。
というのも、そのカップルから2席離れたシートに座る別のカップルもまた、なかなかのオシドリっぷりを披露していたのです。
やっていることは前述のカップルと以下同文。しかし、それだけに飽き足らず、曲が流れる度にゆらゆらと左右に頭を揺らす技まで習得していた彼らの奇行は、場内でもひときわ異彩を放っていました。

右のカップルがチュッ。ポテトを食べさせ合う。
左のカップルが頭を揺らす。からの、チュッ。

その様子を交互に見ながら、私はこんなことを願ってしまうのです。

「2組が同時にキスする瞬間を見たい」

同じ様な技を繰り返しているのに、何故かキスのタイミングだけが揃わない2組にやきもきしながら、私は引き続き彼らの動向を追います。
思えば、この手の苦悩を経験したのは昨日が初めてではありませんでした。

それは、高校卒業後に初めて就職した会社の社員旅行でのこと。
一夜目から酒だ肉だのどんちゃん騒ぎに見舞われた男だらけの旅。
その就寝時に私は同様の経験をしていたのです。

3人一部屋の和室。
お酒が飲めない私以外の先輩社員2人は、完全に泥酔した様子で布団へ倒れ込みました。
数秒もしない内に眠りについた彼らに挟まれながら、「さて、私も寝るかね」と消灯。
その60分後、普段は寝つきの良い私が天井を見つめていたのには理由がありました。
2人のいびきがとにかくうるさかったのです。

左からガー。
右からガー。
寝返りに伴う「ウウウウウ」の鈍い唸り声。
LRからなだれ込むガーガーウーウーガーガーウーウーの重低音に迷惑しながら、どうにかして眠ろうと目を閉じる私。
しかし、瞼の裏を懸命に見つめながら、私は自らの眠りを妨げる様な真似を始めてしまいます。

「何分に一回のペースで、2人のいびきは重なるのだろう」

人類史上最も無意味な観測を始めた私がその後、いつまでも重なることのない意地悪ないびきに苦しめられ、一睡も出来なかったことは言うまでもありません。

「何故15年も前と同じ失敗を繰り返すんだ」と自身に憤慨しながら、それでも留まることを知らない好奇心に苛まれるアワレ私。
本物の漆黒のなかでうごめく2組のカップルをシートの隙間から眺めつづけ、ふと視線を上げるとスクリーンにはスタッフクレジットが流れていました。
この没入感。まさにDOLBY CINEMA。

というわけで、『トイ・ストーリー4』の映画評を装った戯言ちゃんはこれにてお開き。
おもちゃがあっちこっちを動き回る楽しい作品なので、是非観に行ってくださいね(雑)。
ドルビーカップルに幸あれよー。おやすみなさい。