わたくしごと

一発試験で免許を取り戻せ(前編)

件名「あなたの本人確認書類が否認されました」
否認理由:有効期限が切れているため

 

……え??

 

時刻は午前3時。
ネットバンクで新規の口座開設をすべく、本人確認書類として送った免許証の画像にNO!の警告。
「またまたご冗談を〜」と、震える手で財布から免許を取り出してみれば、鈍く輝くゴールドの帯にのった「平成34年8月10日まで有効」の文字。

 

平成34年……
これはもしや……

 

寝不足により指が16本に見える視界でGoogleに即アクセス。
検索窓に打ち込んだのは「平成34年」。
秒速で返された検索結果に思わず漏れた声は、あああああああああ。

架空の「平成34年」とは、令和4年。つまりは去年のことでした。
そういえば、つい2週間ほど前に「免許の更新がそろそろなはずだけど、ハガキ来てないなぁ。来年だったっけかな」なんて思っていたんだった。
郵便物を不用意に捨てることはないので、「届いてない!」と血眼で主張したいところですが、こればっかりは言ってもしょうがないことです。

「今から何をすれば?」
「そもそも今どういう状況?」
「どこへ連絡したらいいの?」
当たり前に期限切れの経験などないため、頭のなかで無限にクエスチョンが生まれました。

困ったときのググ頼み。
カーソルを再度検索窓に合わせます。

 

「免許 期限切れ」

 

検索結果、目視。
そして、ここで本日2度目のああああああああ。
それも、さっきの2オクターブ下で。

今から書くことは、「期限切れだなんて、んなアホな」と鼻で爆笑されている器用なあなた様にゃあ一切無関係な絶望体験記。
免許再取得の手順と哀れ失効者の心の機微にまつわる駄文でございます。
しかし、私は伝えることを止めない。
何故なら、こんな思いをして黙っていられるほどお利口ではないからだ。
仰々しくも前・中・後編に分けてお届けするぞよ。くらえ。

暦の頃なら、2023年6月30日午前3時。
さぁさ、悪夢のはじまりはじまり。

失効期間による罰則の差

まず一番に確認すべきは、己の免許がいつ失効したか。
免許更新忘れし者にとって、ここが地獄レベルの分かれ道です。
浮気も病気も失効も、早く気付くに越したことはありません。
ザザッと簡単にまとめると、こんな塩梅よ。

期限日から6ヶ月以内

「ギャッ!4ヶ月前だった!!」と青ざめているあなた。安心なさい。それ、セーフです。
いや、厳密に言うと全くもってセーフではないのですが、精神的にはめちゃセーフ。
6ヶ月以内に手続きをすれば、4750円の支払いと割と長めの講習で、その日のうちにあっさり更新完了です。おめでとうこのやろう。

ただ、失効していることに変わりはないので、その6ヶ月間で運転をしていれば無免許運転の扱いになります。
でもね、聞くところによるとこの手の「うっかり失効」に関しては警察も割と寛容な様で、検問等で免許をチェックされたときまで気付いていなかった場合は、「うっかり失効だねぇ。すぐに免許センターへ行きなさいね」と注意をされる程度で済むこともあるんだとか。
それでもお構いなしに運転を続けていたらアウトオブアウトですが、初犯者には意外と優しいみたいです。

そしてだ。
次にあげる例こそが私のケース。一緒に泣いてよ。

期限日から6ヶ月~1年以内

ここで一気にポリスの目が鋭くなります。
ちょっとのゴメンネ手数料とナガメ講習なんかじゃ許してもらえません。
課せられる罰はズバリ、本免試験のやり直しです。
ツマリ、仮免を取得した状態からの再スタートというわけですね。

これには頭を抱えました。
やり直しの面倒さはもちろんですが、それ以前の問題として「仮免がどういう状態であるか」を確認するところから始めなければならなかったもので。
なんせ私が免許を取得したのは20年も前のことですからね。

いそいそと現在地を再確認。
「あぁそうか、路上に出るための試験を終えた段階のことか」
そして、時差で絶望。はぁ~~~~~~(6オクターブ下)

せめてもの慰みに、私以上に気付きが遅れた人のケースも紹介しておきましょうか。

期限日から1年以上

こりゃあもう容赦なしで、1からのやり直しです。もう真っ新。純白のキャンパス。漆黒の絶望。白いブラウス。可愛い人。

なにをどう足掻いたところで、凄まじい事情でもない限り猶予など与えてもらえません。
私もあと2ヶ月気付くのが遅れていたらコレでした。
良いことなんて何もないのに、これを知ったときばかりは「よかったぁ~これよりは大分マシか~」と頭に張り付いた両手を離したものです。

鴻巣免許センター

自身に課せられたのが本免の学科&実技試験の刑であることを知った私は、「一日も早く手続きをせねば!」と、その日の昼に鴻巣へ向かうことにしました。
聞いたことないでしょ、こんな地名。コウノスって読むんですコレ。

「今度の日曜日は何か予定あるの?」と聞かれた際に「友達と舞浜へ遊びに行く」と返せば、誰もが共通のアミューズメントパークを思い浮かべるのと同じように、埼玉県民同士の会話における「平日に鴻巣行かなきゃ」は、イコール免許センターへ出頭イタスを意味するもの。
そして、更新者が更新の数だけ口にする「なんでこんなところに作ったんだよ……」という決めゼリフの知名度は軽く「バルス」を超えます。
本当に不便な立地なんですよね。

失効者用の窓口が開くのは、13:00~13:45のわずか45分のみ。
「今寝たら起きられないかもしれん」という恐怖に負け、出発時間まではそのとき進めていた動画の編集作業を続けることに。指は24本に増えていました。

さいたま市の自宅から鴻巣の免許センターまでは車で約90分。
渋滞も考慮して、11:00には家を出ることに。
いつものように車のキーをポケットに入れ、「ふぁ~めんどうだなぁ~」と玄関を開けたところで気付きます。

 

「あ、俺運転しちゃダメなんだった」

 

あぶないあぶない。危うく免許センターでセルフ御用になるところだった。習慣とは恐ろしいものです。

思えば、電車に乗るのは3年振り。
Suicaも持っていなかったので、現金で切符を買うというアナログ体験を。
鴻巣駅から免許センターまではバスで10分、歩くと30分ほどかかります。
私は電車・バスがとにかく苦手なので、歩いて行くことにしました。

寝不足に直射日光。
最悪の食い合わせによるダメージを存分に喰らいながら、うっかり者は無事お叱り施設に到着。
門から玄関までは50歩。一歩踏みしめるごとに呟いた言葉は、「あと4ヶ月早ければ……」でした。

仮免申請

字面の恐ろしさよ

ボヤボヤする頭で、1階の総合案内窓口へ。

職員の方に事情を説明すると、「何かやむを得ない事情はありましたか?」と尋ねられ、「いえ、私の確認不足です」と正直に返します。
すると、キラッと瞳を輝かせた彼から「おぉなんと正直な男だ。君にはこれまでと同じゴールドの免許を差し上げよう」なんて言われるはずもなく、「そうですか。では、あちらで証紙を買って、この申請書と質問用紙に必要事項を記入したら、むこうの窓口へ行ってください」と抑揚ゼロの口調で命じられました。

「これも罰か」と疑心暗鬼になるくらいにインクの出が悪いボールペンを駆使し、記入を急ぎます。入念なチェックを終え、いざ専用窓口へ。
強面の職員さんから「なんで期限内に来なかったの」と軽いお説教を受け、仮免の申請手続きを進めるのでした。

待っていたのは適性検査。
ここでやることは2つ。
ひとつは、申請書にバンバンッ!と、ちょい乱暴に押印する職員さんに「ドウモスミマセン」と謝罪すること。
もうひとつは視力検査。たったこれだけです。

が、ここでまた面倒な問題にぶつかります。

悪夢の視力検査

前回免許を更新したのは5年も前のこと。
当時の視力は両目ともに0.7くらいはあったので、免許証に「眼鏡等」の記載はありません。
しかし、ここ3年で著しく目が悪くなっていることに気付いていた私は、悪化のタイミングで眼鏡を作っていました。
雨の夜に知らない道を走るときくらいしか掛けていなかったので、度も大分軽めのものだったのですが、裸眼では絶対に通らない自信があったので、この日も持ち込んでいたのです。

が。

どうやら私は己の視力をかいかぶっていた様で……

 

職員「眼鏡かけるんですか?」

私「はい」

「その場合だと、免許証に眼鏡の条件が入りますけどそれでも?」

「結構です」

「分かりました。じゃあ画面を覗いてください。まず、これは?」

「うーん……みぎ?ですか?」

「違います。じゃあ、これ」

「うえ……かな?」

「そうですね。じゃあ、次」

「した……」

「まだ変えてませんよ」

「えええ……」

 

もう見えぬこと見えぬこと。
担当者さんのお情けでギリッギリ眼鏡なしでOKにしてもらったのですが、「技能試験前にもう一度測るので、不安だったらそれまでに眼鏡を変えるように」と言われてしまいました。

その後、別の職員さんに連れられて上の階へ。
そこで再び中軽度のお説教を頂戴し、試験に関する注意事項が記された小冊子を受け取りました。

メンキョどろぼう

説明を聞いているうちになんとなく場の雰囲気が柔らかくなってきたので、「やっぱり、失効する方ってそんなにいないですよね?」と尋ねてみると、「いいや、毎日のように来るよ。昨日も6人はいたんじゃないか?」と。
「通知(ハガキ)は必ず送っているけど、届かない人もいるみたいだからね」の言葉に前のめりで「そうなんですよ!」と絶叫しようとしたその瞬間、すべてを見透かしたかの様に「まぁでも免許証に書いてあるんだから、年に一度くらいは確認しなさいって話だけどね」と釘を刺され撃沈。ポリスの目は欺けません。

窓からは試験場のコースが一望できました。
私が通っていた教習所とは比べ物にならない広さ。
どこもかしこも手入れされていてとても綺麗でしたが、走っている車はなかなかの旧式揃いでした。
ぼーっと車が行き交うのを眺めていると、「教習所から来た人にとっても試験は当然厳しいけど、あなたみたいに日頃から運転している人にとっても難しいから練習はしないとダメだよ。どうしても運転が自己流になっちゃうから、そんないい加減な運転のまま来られても合格することはないからね」との忠告。
その後、どのように試験を受けるつもりかを尋ねられました。

技能試験 ~2つの道筋~

学科と技能試験を受け直すにあたり、2通りの受験方法を案内されました。
次回の更新を忘れるであろうあなたの身を案じて、割と丁寧にご説明差し上げましょう。

教習所に仮免入校

読んで字の如くですね。県内の教習所に通い直す手法です。
仮免は既に所持しているので、1から習うよりは安いとのことでしたが、その場で調べてみると相場がなんと20万円。
「ほぼ1からと変わらないじゃないか」と思いつつも口にしたら怒られそうだったので、「ほぉー……」の擬音で感情をごまかしながらページをスクロールし続けました。

はなから教習所に通い直すつもりはなかったのですが、ついでだからといろいろ見ているうちに、教習所には「公認校」と「非公認校」の2種類があることを知ります。

公安委員会指定自動車教習所

こちらは、いわゆる公認校と呼ばれる教習所です。
多くの方はこちらで免許を取るみたいですね。
調べてみると、私が高校時代に通っていた教習所も公認校でした。

公認校の利点は、学科・技能ともにカリキュラムがきっちりと決まっていて、指導資格を持った先生から段階的に学びを得られること。
設備も人員体制もバッチリなので、安心して勉強できることも大きなメリットなのですが!それらのメリットをスーパー凌駕する最強のドドドドメリットが存在するのです。
それは、技能試験を校内で受けられるという超特権!

顔見知りの先生と、見慣れた道路を、乗り慣れた教習車で。
この3拍子パワーたるや相当なもの。
さらに言うと、技能試験の合格率が90%と凄まじく高いことも魅力です。もはや卑怯です。
ただ、この利点に関していえばデメリットと表裏一体なところもありますよね。
基準が易しいからこそ、「こんなんで本当に街中を運転できるんだろうか……」と不安に思い、そのままペーパードライバーになられる方も多いでしょうから。

とはいえ、メリットは絶大。
公認校での技能試験を突破すれば、あとは免許センターでの学科試験を合格するのみですから、試験当日の精神的な余裕も大分違ってくるはずです。
ここで言う「精神的な余裕」の詳細は、後にイヤってほどお話するのでどうぞお楽しみに。

そしたらば、お次はアウトロー校のご説明を。

届出自動車教習所

こいつが世に言う非公認校ですね。
決まったカリキュラムなし。学科の授業もほぼなし。指導員資格の必要なし。と、公認校とは真逆の3拍子が揃った野良スクール。
「技能試験の対策はうちでやってやるから、学科の勉強は自主的にしやがれ」系のやさぐれ施設です。
公認校にはないメリットとしては、費用が10万円ほど安いこと。
また、一日の技能講習時間に制限がないので、苦手なところを集中的に練習することも可能です。

がしかし、大問題中の大問題が仮免・本免ともに試験を鴻巣の免許センターで受けなければならないこと!
多くの教習所のサイトで、「公認校・免許センターともに試験の難易度に差はありません」と書かれていますが、両方を受けたことのある人間にこの一文を読ませたら、その99%がこう叫ぶことでしょう。

 

この大ウソツキがッッ!!!

 

現に公認校の技能試験合格率90%に対し、免許センターでの技能試験合格率は5%程。
笑わせるな。差がないわけなかろう。
両方を経験した今、ひとつ深呼吸をし、最大出力の声量で、もう一度訴えたい。

 

この大ウソツキがッッ!!!

 

失礼しました。
で、次が私の選択した道ですね。

免許センターでの直接試験

一発試験と呼ばれるものよ。これぞ最強の野良。
教習所に通わず、免許センターに行ったその足で学科・技能の両試験を一気に受ける道場破りスタイルです。
この手法を選択する者の多くは、私のような免許失効者。
うっかり失効の他、大きな違反・事故などによって免許停止になった方などなど、既に運転の経験はあるけど、わけあって再取得しなければならない人が選びがちなoneです。

メリットは(スムーズに合格すれば)とにかく安い。
失効から6ヶ月~1年以内の私の場合でいうと、仮免取得から免許再取得に至るまでの費用は(スムーズに合格すれば)25000円程度。
(スムーズに合格すれば)教習所の10分の1ですね。スムーズに合格すれば、ね。

安いとはいえ、落ちればその都度3500円の試験費用がかかりますし、鴻巣までの往復交通費を考えると馬鹿にならない出費です。土日は一切やっていないのも超難点。
試験対策として、非公認校で練習するとなると一度につき一万円近くかかりますしね。
仮免取得から本免合格までの10日の間に各施設で同じ境遇の方と話す機会があったので、そこで聞いた話を平均すると、免許センターでの試験は仮免・本免ともにおおよそ5~10回は受けるのが普通とのことでした。
なかには心が折れて免許の再取得そのものを諦める方や、途中で公認校に通い直す方も多くいらっしゃるそうです。

「技能試験に受かればいいだけなんだから、諦めないでもっと数こなせば良いのに。50回落ちても公認校に通い直すよりは安くあがるじゃん」とのご意見はごもっともですが、受けてみりゃその方々の気持ちもよく分かります。
「教習所は受からせるための試験、一発試験は落とすための試験」なんて言葉が常套句のように使われておりますが、両者にそんな意図はないにしても、そう言われて無理はないくらいの差が確実に存在するのです。

免許センターでの試験は平日のみ。
そして、技能試験に関しては次の予約までに1ヶ月空くことがザラなので、仮免の有効期間(6ヶ月)で受けられる回数が限られてきます。
リミットが迫るごとに「このままじゃ合格前に仮免が切れちゃう!そしたらまた1からやり直し!?うわああああんッ!!」と公認校のドアを叩く人が後を絶たないと。

人の心はお金の力に縋りたくなるほど脆い。
そう力説したくなるほどの悲劇の詳細もまた、のちに臨場感たっぷりにお伝えします。
追体験は、お好きですか?

 

なんだかんだありましたが、なんとか無事に仮免を再取得しました。

あざらしファイルと夢のコラボ

ひとまず今日はここまでにしておきましょうか。
中編となる次回は、免許再取得に必須となる「特定教習(取得時講習)」についてお話します。
あ、ついでに眼鏡を買い替えに行った話もさせてよね。では、またー。

▼ 中編へGO!! ▼