わたくしごと

一発試験で免許を取り戻せ(後編)

あざらし
あざらし

6月30日から始まった怒涛の免許奪還劇。
埼玉自動車教習所にて特定講習を済ませた私は、ついにラスボスである一発試験に戦いを挑みます。

一発試験の流れ

「一発じゃ受からない試験」略して一発試験。
こいつにはちょいと厄介な特性があります。
というのも、学科試験に関しては予約要らずで受けられるのですが、技能試験はその都度予約を入れなければならないのです。
ただ、そんな融通キカーズな技能試験にもたった一度だけ、好きなときに受けられるラッキーチャンスが存在します。
それは、一度目の試験です。

初回の試験は学科・技能ともに予約の必要がなく、行った当日に受けることができます。
技能試験に関して言うと午前の学科に受かることが条件になるのですが、落ちたところで次回もまたお好きな平日に再チャレンジできるので、そこまで気負う必要はありません。
一番面倒なのは、「学科には受かったが技能は落ちたとき」です(大半がそうなるのですが)。
技能試験の予約は先々まで埋まっており、多くは2~3週間先になるそうで、混んでいる時期だと1ヶ月以上空くこともザラなんだとか。
仮免には半年の期限があるので、ここはよーく考えて計画的にいかねばなりませぬ。

実技試験だけなら午前中で終えられるので、落ちることが確定しているのであれば半休でなんとかカバーできますが、合格した場合は免許の発行までに大分時間が掛かるので、土日休みの方は有給を取らなければなりません。
当然ながら何度受ければ合格できるかも定かではないので、スケジューリングにはかなりの苦戦を強いられることでしょう。

試験当日

私が「この日にしよう」と決めた試験日は、失効に気付いた日からちょうど10日後にあたる7月10日でした。
何故この日にしたかというと、私の誕生日だったからです。
なんとなくのゲン担ぎで「誕生日は合格しやすいかもなぁ~」なんつう妄想があったんですね。

学科の勉強はYouTubeの模擬問題を何周か見ただけでしたし、技能に関しても一度で受かる気がしなかったので、とにもかくにもこの日はめちゃくちゃラフな気持ちでした。
だって考えてもみてちょうだい。
「隣に警察官を乗せて、見たことのない道を、乗ったことのない車で走行する」なんて普通じゃないでしょ。
決意をガチゴチに固めたときには決まって馬鹿を見る人生だったので、「ひとまず車両の感覚と試験の空気感さえ掴めれば初回は上出来だわ~」くらいに思っていました。
ただ、不勉強なりにも学科試験には受かりたかったな。
それさえクリアすれば、あとは技能試験のことだけを考えればよくなりますからね。マルチタスクが苦手なのよ。

7月10日当日。
この日も例の如く仕事が立て込んでおり、ノー睡眠で朝を迎えました。
家を出る直前、「さすがに試験日くらいはちゃんと寝られる日にしなきゃマズいかな」と一瞬迷ったのですが、それを通してしまうといつ行けるのか分からないくらい詰め詰めなスケジュールだったので、「エェイとりあえず行ってしまえ!」と勢いのままに2度目の鴻巣へ。ドア to ドアで90分。あぁやだやだ。
カンカン照りの道をノロノロ歩き、ようやくラストダンジョンに到着だい。

受付

免許センターに入ったら、まずは証紙を購入。
仮免申請のときと同様、申請書のあちこちに必要事項を記入します。
前回の失敗を活かし、この日は自前のペンを持っていきました。

受付時間間近になると、各窓口の前に列が出来始めます。
「○○の方は何番にお並びください」と延々流れている場内アナウンスの指示に従って、該当の列へ。
前後に並んでいる方たちは皆、教習所には通わずに試験を受けに来た同志です。
「うっかり失効の人は何割くらいいるのかなぁ」と思いながら辺りを見渡していると、真後ろの兄さん(海老蔵似)に声を掛けられました。
彼は失効者ではなく、一発試験で初の免許を勝ち取りに来た勇敢なチャレンジャー。
「まず一発で受かるわけないですから、気楽にやりましょうよ」と口にする彼の声色からは、「まぁ俺は自信あるけどな」ってな自信がダダ漏れでした。

ようやっと受付開始時刻に。
窓口を覆っていたシャッターが一斉に開き、ゾロゾロと人が前へ進んでいきます。
しかしどういうわけか、前方に並ぶ人たちが必要書類を提出した瞬間に職員から何かを指示され、別の方向へトコトコと。
「ここは書類をザッと確認するだけの場所なのかな?」と思いながら申請書を窓口の男性に渡すと、思い切り睨みをきかせた彼から「あんたはここじゃないよ。隣の列行って!!」とまさかの叱責。
なんちゅう口調だと若干憤りながらも大人しく隣列の最後尾へ回ります。
直後に同じ扱いを受けた海老蔵兄さんは私の後ろにつくなり、「アナウンスであそこって言ってましたよね?つうか何スかあの態度。社会人として有り得ないでしょ!」と酷くお怒りのご様子。
「まぁ警察官ってああいうもんじゃないですか?」とフォローなのか偏見なのかよく分からないセリフで彼の怒りを濁しながら、再度順番待ちをするのでした。

自分の番になり窓口で書類を渡すと、今度はものすごく入念なチェックが入りました。
「記入に不備があったら物凄く怒られるんだろうなぁ」と思いながら黙って待っていると、職員さんからこんな質問が。

「マニュアルで良いですか?」

私はこの瞬間まで知らずにいたのですが、免許を取り直すタイミングでオートマ・マニュアルの制限を切り替えることが出来るんですね。
一瞬迷ったものの、「もうマニュアル車に乗ることはないだろうし、合格率も下がっちゃいそうだからオートマでいいかな」と思い、オートマ限定で手続きを進めてもらうことにしました。

続いては軽いトラウマ、視力検査のお時間です。
これに関してはもうバッチリでした。見える見える。サンキューゾフマルシェ。

申請と適性検査を終え、次に向かうは3階5番の試験室。
学科試験の会場ですね。

学科試験

気分はモルモット

試験室は広々としていました。
入ってすぐのところにいる職員さんに書類を渡し、受験票・えんぴつ・消しゴムを受け取ります。
左右に吊るされたモニターの説明動画を見ながら解答用紙に氏名・登録番号等を記入。
本免の学科試験は2択のマークシート式で全95問。
100点満点のうち、90点以上で晴れて合格です。

全員が揃ったところで職員さんから注意事項の説明があり、問題用紙(冊子)が各席に配られます。
「携帯は電源を切る」「問題用紙は開始の合図が出るまで開かない」という2つの注意を破った方が1名ずつおり、それはもうハイパーな声量で怒られていました。
説明時はとても温和な雰囲気の職員さんだったので、このギャップにはちょっと驚きましたね。
いいか。わすれるな。けいさつかんは。こわいぞ。

試験時間は50分。
モニターには残り時間が表示され、キリの良い時間で「のこり○分」のアナウンスも入ります。
「そんなに急いでやらんでも大丈夫でしょ」とのんびり解いていた私でしたが、ラスト10分の時点でまだ30問も残っていて非常に焦りました。
私ほどトロい方もそうそういないでしょうが、あまりに余裕しゃくしゃくでやっていると後半でワタワタすることになるので、これから受けるのんびり屋属性の方はちょい早足くらいを意識すると吉です。

ギリギリで全問解答。
各用紙を職員さんに提出し、合格者が発表される1階へ移動します。

学科試験合格発表

発表待ちガチ勢

合格発表までの30分を思い思いに過ごす人々。
私はパイプ椅子に座り、目を開けながら眠りました。
耳に入ってくる会話から察するに、周りの方たちは学科試験の答え合わせをしているようでした。
学生時代の試験後の休み時間を思い出して、ちょいノスタルジー。

場内に「合格者発表するわよー」のアナウンスがこだまし、その場にいた全員がモニターのある前へ前へと詰め寄ります。

どんだけ落とすのよ

結果は合格でした。
試験らしい試験を受けたのが本当に久々だったので、ちょっと感動しましたね。
ひとまず今日の目標は達成できたので、この時点で気持ちが大分楽になりました。

技能試験に必要な800円の証紙を追加購入した後、先程試験を受けた第5試験室へ。
そこでは今後のスケジュールについての説明がありました。
「このまま技能試験を受けていくか」を尋ねてまわる職員さんに迷わず「YES」の回答を。
みんながみんなそうだろうと思っていたのですが、そうでもないみたいですね。

「5時までに終わらないなら今日は無理」と帰る人。
「運転するに相応しくない服装(靴)だ」と問答無用で帰されてしまう人。
「心の準備が出来ていないからまた今度にする」とドロンする人等、実に様々でした。
それでも80%以上の方は残っていたかな。

学科は2問間違え98点

一通りの説明を聞き、ここで一旦お昼休憩です。
この1時間は路上コースに出入りすることができるので、場内試験の視察をする絶好の機会でした。
あ、そうか。先に場内試験のお話もしなければなりませんね。

場内試験

技能試験には、路上試験場内試験の2つが存在します。
試験は減点方式で、全員が100点を保有した状態でスタート。
そこから厳しい厳しい試験官による減点殺法を喰らいながら、先に行われる路上試験中に合格ラインの70点以上をキープしなければなりません。
1点でも下回ってしまったらあっさりと不合格。
場内試験に進むことはできず、次回の予約を入れて帰ってねという流れになります。

入れて出るまでがセット

場内課題は、「縦列駐車」と「方向変換」の2種類。
無論、我々弱者に選択権など与えられず、試験当日にランダムでどちらかを言い渡されます。
方向変換に関しては一般的な駐車とそこまでやることが変わらないので問題ないのですが、縦列駐車は日常でやる機会がそうそうないので難易度は高めです。
実際に待合室でも「方向変換であれ!」と声に出して願っている方も多く見受けられました。

ちなみに私はどちらでも良いと思っていましたね。
なんでって、場内試験まで進めると思っていなかったからです。
とは言いつつも試験場の様子は気になったので、コース内に入ってみることにしました。
縦列駐車・方向変換ともに私が20年前に通っていた教習所よりも明らかに道が狭く、「こりゃあガチガチに緊張してる状態だときついだろうなぁ」と。
やっとの思いで路上が受かっても、ここで失敗したら全てがおじゃんですからね。

あまりに暑かったので、視察もそこそこにさっさと涼しい待合室に戻ろうとしたところ、3人組の中国人から声を掛けられました。
海老蔵兄さんといい、この日はやたらと声を掛けられましたね。誕生日だからかな。

話を聞くと、彼らは同じ非公認校から来た仲良しトリオで、これまで同じ日に4回技能試験を受けてきたんだとか。
うち2人は全ての回で路上落ち、1人は場内試験まで進めたものの、縦列駐車で後方のポールに軽く当ててしまい一発不合格になったそうです。
憤った表情で「あのポールさえなければ!!」と地団駄を踏む彼のオーバーアクションからなる躍動感は、紛れもないチャイニーズムービースターのそれでした。
4人でワイワイ話していると、近くにいた日本人女性2人と中東系の男性1人が輪に合流。
不安な者同士で群れたがる心は万国共通みたいだ。

残りの休憩時間は、待合室にいた皆で情報交換をしました。
とはいえ、私は初回の試験だったので、ただの情報泥棒だったんですけどね。
みんなが口を揃えて言っていたのは、「試験官が怖いから緊張していつもの力が出せない」というセリフ。これまた万国共通。どんだけよ。

待合室の壁にはズラーッと21コース分の地図が貼り出されていました。
「Aコースは縦列駐車、Bコースは方向変換」というように、各コースと場内課題はセットになっている模様。
ここでもあちらこちらで「縦列駐車イヤイヤマーチ」が奏でられていましたね。サビしかない奇妙な歌だったわ。

そうこうしている間に休憩時間が終了。
待合室奥に隠されていた窓口のシャッターが開き、呼び出された順に必要書類を提出します。
「一回どこかで接客の講習を受けてきてくれまいか」ってな職員さんの対応はここでも一貫しており、つい5分前まで室内に流れていた和やかなムードは一瞬で消え去りました。
「この施設全体に流れる異常な緊張感さえなくなれば、合格率は5%くらい上がるんじゃなかろうか」と本気で思いましたね。

技能試験の注意事項

表情に若干の柔らかさを感じる職員さんから、技能試験の詳しい説明が入ります。
要約すると、こんな感じ。

・乗車前に車両周りの安全チェックはしなくていい
・道は試験官が案内するから覚えなくていい
・案内を聞きそびれた場合は聞き直せ
・指示が聞こえたら返事をしろ

ちなみに道を間違えてしまっても減点はされないとのことでした。
ただ、元のルートに戻るまでの道のりも採点の対象となるため、その道中でトチると容赦なく減点されるようです。
単に採点時間が長くなってしまうというわけですね。これはどうにか避けたい。

説明タイムが終わると、同じ車両に乗るチーム、及び走行コースが発表されます。
私はインド系の男性&日本人女性とご一緒することになりました。
私と女性の2人はうっかり失効者、インド系の彼はこの日が8度目の技能試験とのこと。
運転の順番はインド系→女性→私。またもやトリです。誕生日だからか。

試験前に最後の小休憩。
その場にいた40人ほどが壁に貼られたコース図の前に群がり、そこに記された場内課題に一喜一憂していました。

長椅子に座ったままの私を不思議に思ってか、同乗する女性から「コース見なくて大丈夫なんですか?」と尋ねられましたが、「知らない町の地図を見ても何も分からないので……」と空笑いで返答。
「それもそうですね」と微笑む彼女の表情は確実に引いていました。

インド系の男性はコースを知るなり私の隣にドカッと座り、スマホをいじりだしました。
なにか言いたげな表情で私の方をチラチラ覗く彼は、しきりに手元のiPhoneを指さします。
「ん?」と目を細める私に彼が見せたのは、YouTubeにアップされた車載動画。
なんのこっちゃ分からず首を傾げていると、「コースを走ってる動画をYouTubeに出してくれてる人がいるの」と密輸ばりの小声でそう教えてくれました。
同じチームとはいえ、彼と私とでは走るコースが違ったので何の参考にもなりませんでしたが、やけに嬉しそうな顔で目くばせしてくるので、一緒に動画を見ながら短い休憩時間を過ごすのでした。

そして、ついに試験本番です。
担当の試験官から呼び出された順に各チームが外へと駆り出されていきます。
間抜け面でボケーッと呼ばれるのを待つ私の横で、2人は「あぁーどうしよ。緊張するー」と渾身のブルブルを分かち合っていました。
「やさしい試験官だと良いですね」なんつう私のノンキな言葉を一瞬で切り裂いたのは、2m先から聞こえた呼び出しの声。

そこに立っていたのは、ピリッとした雰囲気を漂わせるベテラン感全部盛りのおじ様警官でした。
「おわった」と思いました。

 

まさかの、つづく。
※試験の模様を事細かに書いたら長くなりすぎたため…

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