わたくしごと

一発試験で免許を取り戻せ(終編)

あざらし
あざらし

インド系男子、ジャパニーズ女子、私で構成された技能試験チーム。
「どうか優しい試験官でありますように」の願いも虚しく、我々のチームを担当したのは強面のベテラン試験官でした。
ついに辿り着いた合格率5%の技能試験。
その模様を「実写」と言っても差し支えない粒度でお伝えしましょう。

技能試験開始

番号を呼ばれ、試験官のもとへと向かう我ら3人。
異様な緊張感のなか、鋭い目線でギロッと我々を見回した彼はこう言いました。

「大丈夫ですか」

無論、凍ったような真顔で、その声に温度などありません。
日本で生まれ育った私と女性は、この「大丈夫ですか」が「荷物など忘れ物はないか」を意味するものであることを察し、「はい」と返事をしたのですが、異国のニュアンスが伝わりづらかったのであろうインド系の彼は一生懸命な作り笑顔で「大丈夫じゃないですゥ!緊張しちゃいますね!!」とアチャーな一言。
それを聞いた試験官はギュッと眉間に皺をよせ、「そういうことを言っているんじゃない!遊びじゃないんだ!」と会心の一撃をお見舞い。
くるっと背を向け、待合室の外へと早足で出て行く彼について歩く道すがら、「うわぁぁぁやばいっすねぇ」といった表情で私にアイコンタクトを送ってくる女性。
その奥には一喝されて完全に戦意喪失した様子のインド系が俯いていました。

「もうこの時点で全員不合格なんじゃないか?」
負け戦の雰囲気をヒシヒシと感じながら、試験車の前まで無言で歩を進めます。
指示されるがままトランクに手荷物を入れ、トップバッターを務めるインド系男子が運転席へ。
私は後部座席の右側(運転席の後ろ)、その左に女性が座りました。

まだ腰かけて5秒も経っていないタイミングで車内に響き渡った「準備できたら言ってください(意:とっととしろ)」の声。
あまりの圧に焦りながらガチャガチャと座席を調節した彼は、「準備できました!」と高らかに宣言しました。

「それでは、発進してください」

シート越し、わずかに見える運転手の後姿が車の振動とは不釣り合いな震度で震えていたことを今でも鮮明に覚えています。

免許センターから路上へ出ると間もなく、停車指示が出ました。
ここで試験官から「慣らし走行開始」の号令。
ここからの100mは慣らし走行なので、採点の対象外となります。
本音を言えば、「たったの100mで何を慣らせというのか」っちゅう話ですが、そんなことを口走ったら世界が終わってしまうくらいの緊張感だったので、もちろんだんまり。

「がんばれがんばれ……」とエール(念)を送るジャパニーズツーをバックに技能試験スタートです。

一番手:インド系ボーイ

発進前から予想がついていたことですが、実に散々な15分でした。
技術云々以前に緊張感に打ちのめされているのです。
「いくらなんでも慎重過ぎるんじゃないか……」というトロットロな加速、安全確認してますアピールが出過ぎた大袈裟な首の振り、足の震えでガクつくブレーキ。本当に可哀想だった。

前回は場内試験まで行けたとのことだったので、「普段はもっと上手に出来る子なんだろうなぁ」と思いつつも、なかなかに危なっかしいシーンが多々ありましたね。
なかでもヒヤッとしたのが、若干停止線の分かりづらい一時停止箇所でのことでした。
「あれ?この消えかけている線が停止線?それとも、もうちょい先のあの線?」といった様子でじわじわじわーっと徐行を続ける彼。
不安を隠せない挙動で10cm、また10cmと進む車が正しい停止線に差し掛かったタイミングでガッッッと急停止しました。
ブレーキを踏んだのは彼ではなく、試験官。
「しっかりと止まりなさい!一時停止分かってるのかッ!?」と今日一番の喝が響いた瞬間の絶望感よ。つたえたい、あなたに。

安全に関わることなので注意されて然るべきシーンではあったのですが、生温い教習所での指導では有り得ない強度のお叱りだったので、隣の女性もビクッとしていました。

その後、停止線恐怖症になってしまったのか、彼は一時停止の標識が見えるたびにカックンブレーキを連発。
路上課題のひとつに「停車」があり、道中で唐突に「停車可能なところで停車してください」という指示が入るのですが、緊張がピークに達していた彼は左への合図(ウインカー)を忘れたうえ、ブレーキだけで停車措置をし、サイドブレーキとギアチェンジを失念していました。
バインダーに挟まった採点表に無言で何かを殴り書く試験官。
その表情はおぞましいほどに険しく、無言でペンが止まるのを待つ数秒間は永遠にすら感じられたものです。

いろいろありながらも、車は無事ゴール地点に到着。
駐車が完了するやいなや、運転手交代の指示が出ました。
唇をキュッとしめた女性は運転席へ。
私は左の座席にずれ、右側にインド系男子が座ります。

私語を禁じられた車内。
視界の右隅に映る彼の目に色はなく、しばし地獄のような沈黙が続きました。

二番手:ジャパニーズレディー

運転席に座った瞬間から猛スピードで座席とミラーの調節をする彼女。
「準備できました!!」「では、発進してください」の儀式が済み、技能試験2nd seasonの開幕です。

普段から運転しているというだけあって、走り出しから数分はとても良い感じでした。
あんなに緊張していたのに、女性ってのはすごいなぁ。

がしかし、中盤の交差点で第一の試練が訪れます。

50m先の横断歩道に渡るか渡らないかビミョーな位置をゆっくりゆっくり歩いているカップル。
2人でスマホでも見ているのか、止まったり進んだりの繰り返し。
ようやく前を向いた彼らはこちらに気付き、横断歩道の5mほど手前で立ち止まりました。

「どうぞ」と手で合図する運転席の女性。
それに対して、キョトンとした表情を見せる2人。

もう一度「どうぞ」の合図。
今度はなにかを話しているご様子。

「これは渡らないな」と判断した運転手レディーがスローーーな徐行でガードレール越しの2人を横切ろうとしたそのとき、補助ブレーキガツンッ!!!
私の感覚で言っても絶対に安全な距離感でしたし、渡る気がないのも確実だったのですが、やはり試験となるとそうもいかない様で、ここでも叱咤炸裂。おそろしき男女平等の図式。

これを機に順応力抜群な彼女の情緒は狂わされます。
そう、注意された点に全神経を持っていかれるあの現象に苛まれてしまうのです。
極度の緊張から、終始落ち着きのない目線。
そこへ追い打ちをかけるかのように交差点の多いデンジャラスゾーンで停車指示が出されます。
ルームミラーに映るは、「どこに止めたらいいんだろう……」感満載の表情。
迷いに迷った彼女は結果的に数百メートル先まで走ってしまい、再度注意を受けます。
あとで聞いたところ、「駐車禁止」と「駐停車禁止」の違いが分からなくなってしまったようです。
無理ないよ。圧が圧なんだもん。圧。

諦めによって緊張が緩んだのか、その後は落ち着いた様子でスムーズな走りを披露し、試験終了。
「ありがとうございました」と力なく頭を下げる彼女に5cmの激浅会釈を返す試験官。
ハザードランプのカッチッカッチという音だけが聞こえるド静寂のなかで、最後の運転手交代です。

え?このときの私の気持ち?
決まってんでしょ。
せかいのおわりよ。

三番手:わたし

運転席に座り、諸々の調節をしながら思っていたことはただひとつ。

「今日は練習だ」

ごめん、もうひとつあった。

「試験官の癖を見抜いてやる」

合格なんて二の次。
次回の試験で受かるための方法論をこの15分で掴もう。
そう胸に誓って走り出したのよ。
「準備できました」の一言を完全に忘れてね。

こうして開始5秒で注意を頂戴するも、元来緊張と人様からの攻撃には滅法強い私。
平常心を乱すことなく、特定教習で出会ったメンズのことを思い出しながら法規!法規!法規!な安全運転を心がけます。
嫌がらせとしか思えないほど路駐車の多いルートで、どこもかしこも進路変更フェスティバル。
「国どころか神も仏も受からせる気がないんだな」と空を睨みながら、右へ左へと忙しなくウインカーを稼働させます。

そして、誰しもに例外なく訪れる事件タイムの到来。
私のそれは、停車課題で巻き起こりました。

この日3度目となる「それでは、停車可能なところで停車してください」の指示。
片側一車線の狭い道路で、車道ギリッギリまで寄せて停車。
サイドブレーキとパーキングへのギアチェンジを行い、「停車完了しました」のセリフも忘れずに。
「はい、それでは出発してください」試験官の声色は相変わらず冷徹。
「この人も家に帰れば家族や愛犬には優しい笑顔を見せるんだろうな」と思いながらサイドミラーを見ると、後ろから青い軽自動車が迫ってくるのを確認しました。
さらにその200mほど後ろには、法定速度30kmオーバーだろってくらいの荒振りスポーツカーが超疾走。
「こりゃ危険だわ」と、ウインカーをつけずに大人しく追い抜かれるのを待っていると、左側から「どうされましたッ!?」と苛立ちマックスの怒声が。
おそらくウインカーを出さないことに対するお叱りだろうと判断した私は、2台の車に追い抜かれたタイミングで再度停車措置をし、森本レオめいた口調でこう伝えました。

「合図を出しても良かったんですけど、後ろに軽が来ていたじゃないですか。で、その後ろにはスピードを出したスポーツカーもいました。この車は「試験車」の表示がされているので、もし私があのタイミングで急に合図を出したら後ろの軽が警戒して強いブレーキを踏むかもしれません。そうすれば、その後ろのスポーツカーも急ブレーキを踏むか無理な追い越しをする恐れがあります。他者に急な判断を強要する運転は安全ではないと判断したので、合図を出さずに追い越されることにしました」

 

車内 シーーーーーーーン

というか、もはや キーーーーーーーン

 

7秒ほど無言で見つめ合う試験官と私。
灰色がかった彼の黒目には、「なんか言ってくれよぅ」感全開の情けない顔が反射していました。
なんだこの眼鏡、見えすぎだろ。

一瞬視線を落とした試験官はボールペンをカチッと一押し。そして一言。

 

「はい。じゃあ発進してください」

 

なんじゃそりゃぁぁぁあああ!!!
なんて言えるわけもないので、「警察官は絶対!」と胸中で呟き、ゆっくり発進。
カリカリカリッとなにやら長文めいたものを採点表に書く音が続いたので、「あぁ口ごたえだと思われたかなー減点かー」と思いながら、指示された通りの道を行きます。

出発時の注意。
再発進時の注意。
直後の長文カリカリ。
この時点で「もう受からんだろ」と確信した私は、終盤で「あること」を試みます。
今日の目的のひとつとしていた「試験官の癖を知る」。そのための実験です。
どうしても減点の境界線を知りたかったんですね。

先にもお伝えした通り、この試験は減点方式。
どんなに良い行いをしたところで加点はされません。
つまりは、試験官がペンをとる=減点です。

前の2人が運転しているときもそこにずっと注目していたので、ある程度の減点ポイントは把握できていました。
しかし、気になる減点基準がひとつだけ残っていたのです。
それは、速度の採点基準
「これだけは知って帰りたい」と思った私は、車がほとんど走っていない40km道路で少しずつ速度を上げていくことにしました。
じわじわじわっとアクセルを徐々に強め、35…36…37…38…

 

39km
当たり前に何も言われない

40km
制限ピッタリだけどどうだろう

41km
あれ?これも平気?

42km
前後5kmまでいけるのかな?
あと1kmだけやってみよう。

43km

バンバンバンッ!!!

ボールペンでバインダーを突く強烈なビートにのせられた「速度調整してッッ!!」のシャウト。

ここかと。
ギリギリなにも言われないポイントは42km。
そしたら下も38kmくらいなら加速不良とは言われなさそうだ。

当然ながらその後、「バインダー削れてんじゃないか?」ってくらいのガリガリ音が車内に響いたのですが、目的は果たせたので何の悔いもありません。あとは安全運転を徹底するのみです。

チーム内のラストドライバーはゴールが免許センター内だったので、そのままスルスルーッと玄関を通過すると、ここで試験官の口から思わぬ言葉が発せられました。

 

「はい。あなただけ、場内試験を受けてもらいます」

 

差し出された手の先は私でした。
超油断していたので、呆気に取られて返事の声も出ず(これは怒られなかった)。

「あなただけ」
この一言は、後ろの2人が不合格であることを知らせる言葉でもあります。
悪いことをしたわけではないのですが、それまで仲良くしてもらっていたので、若干気が滅入り、ルームミラーを見ることができませんでした。
あのときの空気、いやだったなぁ。

もやもやとした感情を抱えたまま、免許センター内の教習エリアに停車。
休憩などは挟まず、そのまま場内試験へ突入です。

場内試験

「勘弁してくれ」と思ったことがありまして。
なんと場内試験中も2人は後ろに乗り続けるんですね。
真後ろからは無言の熱視線、左からは試験官の激視線。
いくら鈍感な私でも、この状況はなかなかに居心地が悪かったわ。

そして、ここで思いもよらぬ大事件が(私のなかだけで)勃発します。
試験開始前から「受かるわけなかろう」と思っていた私は、場内課題が方向変換・縦列駐車のどちらかであるかを確認していなかったのです。

「ウーワー、どっちか教えてもらえなかったら死亡確定だわー」と戦慄しながら場内コースへ合流すると、「あなたは縦列駐車だから、次の次の信号を右ね」と神の一声。
「よかった~」と思うも時差で顔面凍結。
「え?縦列駐車って言った?まじかー」とガッカリしながら、課題ゾーンへと向かうのでした。

で、です。
縦列駐車エリアまでの道をぐるーっと走っているときに私は気付いちゃったんですね。
なににって、これに。

 

「これが上手くいったら……合格じゃん」

 

馬鹿げてるとお思いでしょう。でも、そうなんですよ。
はなから受かる気がしなかったので、自分があと一歩のところまで来ていることに気付けていなかったんですね。

急にこみ上げてきた実感に戸惑いつつも、指定された縦列駐車ゾーンに到着。
「ここから採点に入ります」の一撃を合図に、20年間で3回もしたことがないであろう縦列駐車に挑戦です。
奇しくもそこは昼休憩で中国人ズと談笑していたゾーンでした。

普段運転をされている方には分かっていただけるかと思うのですが、自家用車とはまるで異なる車種の車両感覚を掴むのはそう簡単なことじゃありません。
特に車幅や長さが普段運転している車と著しく異なる場合なんてオーマイガァ。

ちなみに私の愛車はマツダのVERISA(ベリーサ)という最高に可愛いフォルムをした車です。

もう20年乗っています

ご覧の通り、割と丸っこいボディなんですね。
でも、当日の試験車ときたらコレよ。

へいタクシー

前後が長いよー。

街中を走っている分には勘でどうにかなるのですが、狭いスペースへの縦列駐車となるとそうもいきません。
だって、運転席からは前後がどこまであるのかまったく見えないんだもの。
「あと5cmいけるかな?まだいける?まだいけるか?ゴンッッ」で一発不合格ですから。たまったもんじゃない。

しかし何をどう足掻いたところで試験車は試験車。勘を頼りにするしか術はありません。
時間制限はないと聞いていたのですが、ダラダラやってもダメなときはダメなので、ミラーとポールを見ながらススススーッと凹ゾーンへ突入しました。

下がってーハンドルを左に切ってー真っ直ぐに戻してー下がってー右に切ってーストップ!

「あ、上手くいったかな?」と思うも、窓から顔を出して下を見ると、ギリッギリタイヤが縁石を繋ぐラインに入っているか入っていないかの瀬戸際に。三苫の1mmに迫る際どさ。
「これは……セーフ……なのか??」と迷いあぐねる私でしたが、「ここは教習所じゃない。曖昧なものは全部アウトだろう」と意を決し、狭きゾーンのなかで切り返しを図ります。
が、ここでもうひとつの大問題!

 

「あれ!?切り返しって減点対象なんだっけ???」

 

そう、これまた受かるわけねーじゃろーの論により、事前に聞かされていた採点の案内を把握していなかったのです。

 

「たしか一回は減点じゃなかったような……いや、それは方向変換だったっけな……」

 

隣に座っているのが垂れ目のニコニコ教官であれば、「切り返しって何回から減点なんでしたっけ?テヘヘヘ」と聞けるのですが、ここは日本有数の地獄鬼門更生施設「鴻巣免許センター」。尋ねることで減点されてしまうかもしれない。

そして、さらに厄介なのが、現在の私の持ち点が分からないこと。
仮に80点のこっているのであれば、切り返し程度の減点で落とされることはないと思えるのですが、それさえ教えてもらえないのでヒヤッヒヤです。

「ええい考えたって仕方ねえ。いてまえ!!」

覚悟を決めた私はハンドルを切り、慎重に後退します。

「まだいけるか?まだいけるのか!?」とロックバンドさながらの煽りを脳内で念じながら、どうにか問題なさそうなところまで寄せ、再び車体を真っ直ぐに。
試験官のバインダーが動いていないことを確認したのち、「ちゅうしゃ、かんりょうしました」と今世紀一の腑抜け声で告げました。

ここで試験官だけが車から降り、エリアにきちんと車体が収まっているかを入念にチェックします。
そして、もう何度聞いたか分からない「では、発進してください」のセリフ。
スルッとゾーンから抜け出し、指定された場所に駐車します。
サイドブレーキオーケー、ギアもパーキングに入れた、ハザードランプも働いている。ここで殺し文句だ。

「駐車完了しました」

その後、3人は車から出され、試験官は運転席へ。
試験順に後部座席に座り、のこる2人は外で待機。
噂に聞いていたワンポイントアドバイスタイムです。

まずはインド系男子が乗車。
窓が閉まっているので何を言われているのかは分かりませんが、結構細かくアドバイスをされている様子でした。

最後に書類を戻され、車から降りる彼。
「ダメでしたぁ」と言いながら近付いてくる表情には、自然な笑みが浮かんでいました。

続いて女性が乗車。
アドバイスは短めだったので、おそらく大きな問題はなかったのでしょう。
「はぁ……」と深い溜息をつき、「緊張しましたね」と一言こぼす彼女にも笑み。
「恐怖から解放されると人はみんなこういう顔になるのか」と思いながら、おずおずと車に乗り込みます。

 

「よろしくお願いいたします」

イラッとした表情でこちらを睨む試験官。

「ええええ??」と首を伸ばす私。

すると、すぐ左側の窓がウィイイーンと下降。

「なにしてるんだ!待ってないで上へ行きなさい!!」

 

注意されたのは外の2人でした。
事前に合否発表とアドバイスを受けたら上の階へ行くよう言われていたのですが、私のことを待ってくれていたのでしょう。まじ申し訳ない。

さて、唐突ではございますが、私には胸骨圧迫以外にもうひとつだけ特技がありまして。
それは、記憶です。
今からそいつを駆使して、車内でのやりとりを一字一句余すことなく書き記しますね。

 

試験官「えーっと今日の試験はね、合格で出しておきます」

私「ありがとうございます(まじか)」

「直さなければならないところはね、まず安全確認の動作が早すぎてきちんと死角を目視できているのか分からないことがあった。それと狭い道で左折するときにちょっと膨らんだところもあったから、もっと小さく内側を回るように。あとはーーー……途中の速度超過。あれは何か意味があってやった?」

「(ギクゥ)いえ、ただアクセルを踏み過ぎただけです」

「ふーん……踏み過ぎたか。目線はスピードメーターにいっていたように見えたけど」

「(ウェッ)」

「(申請書を凝視)あぁ、あなたは失効したのか。今日の試験は一度目?」

「そうです」

「マニュアルじゃなくて良かったの?」

「はい、もうAT車しか乗りませんし、マニュアルだと落ちると思ったのでオートマにしました」

「ふーん。あなたなら大丈夫だと思うけどね。まぁまた必要であれば限定解除するなりして」

「はい」

「注意はそれくらいかな。うん、優秀でした。次は更新日をちゃんと確認して同じようなことのないように。以上」

「はい、気をつけます。ありがとうございました」

 

車を降り、ドアを閉める直前に「お世話になりました」と告げると、「はーい」と言って左手を軽くあげる試験官。そこには、初めて見る笑顔がありました。

「なんだ、めっちゃ良い人じゃないか……」

そう思うと共に「俺ってチョロいなぁ」とも思いましたね。
いやはや強烈な鞭のあとの飴は甘すぎて、いろいろと判断を狂わされちゃうわ。

免許交付

待機室を見渡すと、路上試験の待合室で見た人の姿がまるでありませんでした。
話には聞いていたけど、ここまで厳しいのか。

日本人らしく一番隅の椅子に腰掛けると、斜め後ろから「おめでとうございます」の声。
振り返ると、休憩時間に縦列駐車ゾーンで談笑した中国人ズのひとり(前回場内まで進んだ方)が満開の笑顔を咲かせていました。

「普通車の合格者はワタシとアナタだけ」と誇らしげに耳打ちする彼。
「合格率5%って脅しじゃなかったんだなぁ」と言い合いながら、長い長い待機時間を過ごすのでした。

時間になると警察官がやってきて、我々に運転者の心得を叩き込みます。
そして、念願の交付手続きへ。
証紙買って、書類書いて、60分ほど待機して、写真撮って、20分ほど待機して、つつつついに新しい免許証の受け取りです。

さよならゴールド

時刻はもう18:00。
こうして、ながいながい一日が終わるのでした。

失効に気付いた日から10日で取り戻せた免許証。
ゴールド免許ではなくなってしまいましたが、自業自得です。
もう一生更新は忘れない。これ以上の誓いはないね。

ペーパードライバー、緊張に弱い、打たれ弱い、平日に休みを取りづらい、どれかひとつにでも当てはまるようであれば絶対絶対絶対にオススメできない一発試験。
それでも予算などの都合で「どうしても!」という方もおられることだろうと思い、こうして失効者の感情の機微をメインとした記事を書いてみた次第でございます。
みなさまもご自身のチェックだけでなく、身近な免許所持者に「更新期限大丈夫?」と声を掛けてあげてくださいね。
そのなかで、もしも「6ヶ月以上過ぎてたァ!」といううっかりさんがいたら、このブログを教えてあげてちょうだい。等身大の絶望を差し上げちゃうわ。

なにはなくとも、ここまでのお付き合いに大感謝。
人生諸々ご安全に~。